この1週間で米国の雇用統計、CPIと、もはやテーパリングと利上げが緩む気配のない統計が出てきて、米国長期金利も2％の大台に戻してきた。
ここまでくれば米国の金融引き締めは明確であり織り込みもしやすくなってくる。そして日本への影響を考えると、日本のインフレ率、金利、為替にどう影響してくるのか日銀のアクションも重要な要素となってくるが、今週毎日新聞の取材で黒田総裁がわりと衝撃的なコメントをしていた。

結論から言えば、日本の金利の底はようやく見えたとも言え、円安と金利上昇（下がらないという意味でも）のシナリオの蓋然性が高まったのではないかと考える。

以下、毎日新聞の記事を抜粋。

「エネルギー価格が一時的に上がることで（企業間の取引価格の動向を示す）企業物価は上がっているが、消費者物価も大きく上昇する可能性は極めて低い。22、23年度に2％になると考えている（日銀の）政策委員はいない」

「日本は欧米より景気回復のテンポが遅く、物価上昇も0・5％程度なので、金融緩和の縮小や引き締めに切り替える必要はないし、あり得ない」

海外で起きて懸念視されている7％というインフレを念頭に、日本ではそのようなことは起きないから問題ない、金融緩和は継続するから安心してほしい、ということを言いたかったのだと思うが、「向こう2年で2％になると考えている政策委員がいない」とはっきり言ったことはかなり驚き。
もしそうであるなら、今すぐにもさらなる追加緩和やインフレ2％達成のための施策を行うべきであり、インフレ2％を目標にしていないのであればもはや日銀は何を目標にしているのか謎である。

実際にところ、すでに大規模緩和を行っている日銀に打つ手がもうないことはかなり前から指摘されていたことであったが、黒田総裁はマイナス金利深堀りなどの飛び道具含めて、打つ手がないこと自体は繰り返し否定してきていた。
一方で追加アクションしない理由は、インフレ2％達成に向けての道筋にのっているから、というのが一応の建前であったが今回はそれを完全に放棄してしまったことで、市場から見透かされている通り追加で打てるアクションはほぼないことが露呈してしまっている。

ここ最近の金利上昇を受けて14日に久しぶりの買い入れオペを行うことを発表したが、その水準も0.25％とかつての水準からはかなり腰の引いた水準。もちろん、グローバルにインフレと金利上昇が起きている中で、日銀がせっせと高値で国債を買い入れる必要は皆無であり、徐々にゼロ金利の意味の幅を広げて金利上昇を容認する姿勢に違和感はない。
ただそれはインフレが達成できることを念頭にした話であり、今回のようにインフレしないと思っているにも関わらず、強気の緩和もしないというのは事実上日銀に打てる緩和はもうほとんどなく、市場のボラティリティをなるべく下げながらも、市場を追認していくしか道がないことを意味しているのではないか。

これ以上緩和するわけでもないが、かといって姿勢として緩和維持しないわけにもいかず、市場金利は一定程度抑えるオペを緩く行っていく。この姿勢がもたらす結果は、まず円安の加速だろう。米国金利は上昇するが、日本の金利は政策の観点からもある程度抑え目になるから。そして、トランプ時代までと異なり、インフレに悩む米国はかつてほど円安ドル高に口うるさくなく、むしろそれを望んでいる節がある。米国が引き締めに動く中、緩和姿勢を続ける円は独歩安する好環境で、政治的な問題も今ならない。
個人的にはあまり為替にベットしたリスクはとらない主義だが、今回は輸出系にさらに大きく振ってもいいのではないかと考えている。と同時に、輸入系はエネルギー価格の高騰と円安のダブルパンチで価格転嫁に苦労するので、引き続きショートの筆頭としてロングショートを組むのがいいのかもしれない。

次に金利低下余地の限界が見えたこと。緩和姿勢維持とはいえ、もはやインフレ2％を目指して何でもやるという姿勢は日銀にはもうない。となると、インフレが日本でどこまで起きるか、また金利がどこまで上がれるかはさておき、これ以上の金利低下はもうないのではなかろうか。黒田緩和時代の終焉といってもいいかもしれない。そして円安効果から一定のインフレが起きてしまう（本来日銀はそれを望んでいたはずだが、、）可能性が高く、金利上昇の圧力は残り続ける。
さきほどの円安メリット含めて、MUFGなどは金利上昇の恩恵と海外事業の比率の高さから、どちらでもプラスに効いてくるので景気動向に左右されやすい輸出株よりさらに安心感が出てきたように思う。他に東京海上なども金利と円安の両方の恩恵を受けそうだ。

コロナ以降の大金融緩和時代の終焉の中で無理してロングポジションを持ちたくない、そういう場合は円安、金利上昇デメリット銘柄のショートを中心に据えて、ヘッジとして低バリュエーション株をロングするのはどうだろう。

個別でいえば、大好きなアイフル株なんかは、低バリュエーション、成長、金融と割と安心感の要素が整っている。消費者金融の場合すでに上限金利いっぱいで貸出しているので、金利上昇の恩恵などほとんどなく、むしろ調達金利が増えるからネガティブでしかないので、普通の金融株とは全く異なる。にもかかわらず、株としては金融セクターと同じような動きはするので、この辺は株式市場のいい加減なところであまり理解できない。
といったことを割り引いたとしても、まぁMUFGとかといっしょに持っておくのはいいかなと思い、他でショートポジションも組みながら持ち続けている。

今週出た決算も堅調の一言だが、さすがに過払いの引当金が減ってきたので本決算前に引き当てや下方修正が出るんじゃないか、と予想。過去はむしろそれが出たら株価は上がったが、今回はどうなるか分からない。ただいよいよ過払いも終焉に差し掛かっているので、来期以降のさらなる増益、増配に期待したい。

インフレ2％はもう日銀の目標ではない？何を目指しているのか謎の日銀と金利の底が見えた日本株。