先週、今週は全世界の株式市場は数多くの懸念材料を払拭し、先日申し上げたベア相場の「吐き気がする暴騰」のような動きを見せてくれた。急なコモディティ価格上昇、急な金利上昇、地政学的リスクの長期化の影響はまだ計り知れないが、今月初めの暴落で一旦相場の恐怖が消化され、新たにパニックを起こすようなヘッドラインがなかったため過去2週間はショートカバーに加え短期的な買いでベア相場らしい暴騰が演出された。

そこでこれまで何回も紹介してきた **実質エクイティリスクプレミアム** を再度見ていきたい。

おさらいだが、（実質）エクイティリスクプレミアム（以下ERP）は **株式益利回り（PERの逆数）から実質金利（名目金利ーコアCPI）を差し引いたもの。** ERPはすなわちリスク資産である株式の期待収益率が、無リスクで享受できるリターン（国債金利）をどれくらい上回っているかを表す。つまり、  **株式に投資するリスクを取る意味がどこまであるか。**

ERPが高いほど株式にそれ相応のリスクが含まれており（織り込まれており）、 **債券対比「割安」とも言える。**

一方ERPが低いほど株式のリスクに見合わない収益水準であることを意味し、 **債券対比「割高」である。** ERPがゼロ近辺かゼロ以下の時は極端のバブル状況を表している。

言い換えればERPは債券と株式の相対的なバリュエーション指標である。私の投資人生の中で極めて重要視した指標の一つでもある。

実は、3月上旬の下落で **ERPは過去40年間、一度も超えなかった9％の水準を超えて新たな時代の幕上げを告げた。**

それは、3月上旬の株価が「割安」だったのを意味したのだろうか。その答えは後半で議論してみよう。

# S&P500の1970年～の週次実質ERPの推移

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/e94c981d-0792-418a-8b03-9292e2a36867)
さて、上図をご覧ください。過去50年間のERPは大きく、 **三つの時代に分かれる：**

* 1970年～1982年の「高インフレ時代」
* 1983年～2008年の「価格安定時代」
* 2009年～2021年の「低インフレ・緩和時代」

それぞれの時代の特徴をみていきたい。下のテーブルにそれぞれの時代の株価収益率（直近12か月累計PER）、10年名目金利、そしてインフレ（コアCPI）を載せた。

![image.png](https://grid-images-production.cryptact.com/a5cc5cbb-6959-4ffa-a1db-026b8ea93f71)

# 高インフレ時代

1970年代は二桁のインフレに見舞われ、金融政策も非常に不安定な状況であった。景気後退が懸念され、緩和と引き締めが交互に行われ、ボルカー議長が最終的に20％まで金利を上げるまでインフレは収まらなかった。その前は株価の上下50％の変動や、長期金利の急上昇が何度も繰り返された。 **この時代の株式のPERは慢性的に低く、企業の収益に対する不安や、インフレの影響から収益性の持続性を疑う動きが主だった。** その不安がERPにも表れ、株式のリスクが常に意識され、8％台のERPが長く維持された。

# 価格安定時代

1983年から始まったこの時代はその前のと比較し、インフレが抑えられ、金融政策も比較的に安定していた。それを理由に企業の収益も安定し、還元の基盤が強固なものとなった。前の時代のバリュエーションを大きく超える水準で評価をされ、技術革新とともに途中でドットコムバブルが発生しERPが０％以下となった。 **過去50年間、ERPがゼロ以下となったのはこの時代のみ。** 金利が平均的に高かったにも関わらず（債券から大きくリターンを見込めるにも関わらず）株式の安定的な収益によるバリュエーションの上昇がずっと続き、割高ともいえる2％台のERPを長くキープできた。

# 低インフレ・緩和時代

リーマン危機から始まった「作為的な金利市場」はそれまでなかった新たな構造を作り上げた。中央銀行の介入（ゼロ金利・量的緩和）で金利が常に低く抑えられ、債券で収益を期待できないことから常にリスク資産に資金が流されてきた。その結果、バリュエーションは価格安定時代をさらに上回ったがERPは2％を大きく上回る5％台を長年維持してきた。インフレも技術革新等で構造的に下がり、金利上昇も特になく、10年間を超えるブル相場がこの時代の特徴。

# そして現在は…

まず、上の折れ線グラフで「3月4日」とラベルされている「9.17%」に注目して頂きたい。

**1982年以降、ERPが9％を超えたことは一度もない。** そして低インフレ時代に8％を付けた回数は **たった3回：**

* 2008年のリーマン危機
* 2011年～2012年の欧州クレジット危機
* 2020年のコロナショック

ERPの変動要素が三つあるため、株価の下落だけでERPが上昇するとは限らないが上記の三つは全て株価の暴落でERPが一瞬、大きく上昇した。株価下落により、債券対比の「割安さ」が増した。

今回はそういった制度的なリスクはまだなく、株価の下落も決して「危機的な暴落」と言える値下がりでもないのに、なぜ8％を超え40年ぶりの領域に突入したのか。

言うまでもなく、現在のPERは決して割安ではなく50年間の中で比較的高水準にある。現在の高水準のERPを生み出しているのはもちろん、QEで抑えられてきた長期金利とそれを遥かに超えるインフレ率。

つまり実質金利（名目金利ーインフレ率）は大きくマイナスであり、株式益利回りからそのマイナスを差し引くためERPが高くなる。

**しかし、今のように金利が突然上昇するとどうなるのか。**

名目金利の上昇で株式益利回りから差し引く数字が大きくなり、そのままであればERPが低下する。すなわち株式が割高になっていく。

そして株価が下がるか、企業収益が大きく改善しない限り、ERPは益々割高の方向に進んでいく。 **株式の魅力が失われていく。**

現在のインフレを反映し、 **もし今の8％～9％のERPが常態化するのであれば1983年以降にあったようなバリュエーション水準はもう維持できない恐れがある。** 債券の利回りがさらに上がり、インフレが落ち着いてくれば株式に投資する理由がどんどん減っていく。

一つのシナリオに過ぎないが、たとえばコアCPIがいずれ3％程度に下がり、10年金利で4％～5％の水準まで上昇した場合、グロース企業に対してわざわざPER40倍や50倍（2％～2.5％の株式益利回り）を払う投資家が激減するであろう。

**ちなみに私個人としては10年国債で4％～5％も稼げる時代を密かに楽しみにしている…**

40年ぶりにとある「9%の壁」が打ち破られた