執筆:西村 麻美

スシロー(Food & Life Companies 3563)の株価情報

くら寿司(2695)の株価情報


 

 

各社基本情報

 

企業概要(スシロー,3563)

旧社名スシローグローバルホールディングス。1975年に創業の大阪府大阪市阿倍野区が本拠地の回転寿司チェーン、業界首位。運営ブランドはスシロー(国内店舗数626店)、スシロー海外店舗59店(台湾26店、中国1店、香港11店、タイ3店、シンガポール9店、韓国9店)京樽(2021年に吉野家ホールディングスより全株式を取得し子会社化、国内店舗数333店、海外2店)、海鮮三崎港(店舗数83店)、寿司居酒屋杉玉(店舗数45店)

 

株式関連情報

株価4,395円(2021年12月24日)
発行済株式数116,069,184株(うち自己株式 248株)
上場市場東証一部
時価総額5,101億円

 

従業員数

2,863名 (連結)、190名(単独)(2020年9月時点)

 

財務データ

 2017/92018/92019/92020/92021/9
売上高(百万円)156,402174,883199,088204,957240,804
営業利益(百万円)9,20411,71814,54612,06122,901
当期利益(百万円)6,9467,9909,9596,45713,185
EPS(円)253.16276.93343.2555.64113.61
純資産(百万円)31,80040,83547,36750,92063,573
BPS(円)1,145.361,435.991,630.54436.63※552.48
純資産(百万円)125,562132,062136,349237,265296,001

※2020年4月1日に1対4の株式分割を実施した為にBPSが前年の約4分の1まで低下。

 

企業概要(くら寿司,2695)

大阪府堺市が本拠地の回転寿司チェーン。業界二位。店舗数は日本国内495店、米国32店、台湾40店、計567店

 

株式関連情報

株価3,565円 (2021年12月24日)
発行済株式数41,399,600株 (うち自己株式 1,743,030株)
上場市場東証一部
時価総額1,414億円

 

従業員数

2,090名(連結)(2020年10月時点)

 

財務データ

 2017/102018/102019/102020/102021/10
売上高(百万円)122,766132,499136,134135,835147,592
営業利益(百万円)6,3416,8755,475350▲2,678
当期利益(百万円)4,8845,1303,766▲2621,901
EPS(円)247.40259.84190.79▲6.6547.98
純資産(百万円)34,72439,27547,21147,56954,657
BPS(円)1,754.311,984.362,227.911,116.121,216.39
純資産(百万円)34,72459,06868,21685,10298,989

 

寡占化が進む回転寿司市場

過去約二年近くのコロナ禍で国内の外食産業の勝ち組は回転寿司であった。日本国内の回転寿司市場は2001年に2,520億円だったが、2020年には6,196億円と20年間で約2.5倍に拡大した。

(出典:日経クロストレンド「スシロー、くら寿司はなぜ強い すしチェーンをデータで徹底比較」2021年12月6日より)

回転寿司市場は大きく拡大したが、大手3社(スシロー、くら寿司、カッパ寿司)で約72%を占めており寡占化が進んでいる。業界首位のスシローのマーケットシェアは約36.5%、業界2位のくら寿司のマーケットシェアは24.2%、業界3位のカッパ寿司のマーケットシェアは11.5%である。
(出典:株式会社デジタル&ワークス、業界動向サーチ

回転寿司市場はビジネスモデルの優れた大手チェーンが中小の回転寿司店のシェアを奪って成長していくという大きな流れになっており、益々寡占化が進んでいくと予想する。

 

2社の直近の決算結果

直近決算では、スシロー、くら寿司の業界首位、2位の二社は売上ベースでは過去最高を記録した。スシローは営業利益、当期純利益も過去最高を達成した。

スシローの2021年9月期決算結果は売上高が前期比17.5%増の2,408億円、営業利益が同89.9%の229億円、当期純利益は同104.3%の132億円だった。くら寿司の2021年10月期決算結果は売上高が前期比8.7%増の1,476億円、営業損益は▲27億円(赤転)であったが、助成金収入が52億円あったために当期純利益は14億円と黒転した。

(出典:スシローHP

回転寿司二強の決算結果は明暗を分けたものであった。スシローの勝因は繰り返される緊急事態宣言に影響されないテイクアウトに注力し、テイクアウト専門店国内は21店舗、海外は1店舗であった。以前販売していた手巻き寿司セットを復刻販売するなどテイクアウト商品を強化した。また、web経由の売上が50%を超えデジタル化が一層進んだ

一方くら寿司は店舗の非接触化を進め、国内店舗はフェアを毎月実施し、鬼滅の刃等の人気アニメグッズが当たるキャンペーンを実施した事により売上高は過去最高を更新した。元々くら寿司は海外展開に注力しており、2019年夏にNasdaqに上場した。米国では33店舗、台湾では42店舗を運営しているが、コロナの影響で米国では座席数制限と台湾では店内飲食制限が出されたために赤字になり営業赤字に転落した。しかし助成金収入により最終損益は黒字に転換した。(2020年10月期の最終損益は▲2億6,200万円)

(出典:くら寿司HP

 

スシロー一強はどこまで続くか

2021年12月9日のDiamond Onlineで “回転寿司の利用者が減る中、スシローの驚異的成長を支える「特別なお客」とは“と特集記事が取り上げられていたが、この記事には大変興味深い分析とデータがあった

水産最大手企業のマルハニチロの調査によると、回転寿司を利用する人の比率は2012年の83%に対し2021年は71%と、約10年で10%ポイント以上も低下した。
しかし、回転寿司市場が高い成長を達成しているのは回転寿司を愛してやまないヘビーユーザーに支えられているという分析である。

マルハニチロの調査によると週に1回以上のペースで回転寿司を利用する人の比率は、2012年の3.3%に対し、2021年は5.5%へと上昇した、との事でヘビーユーザー回転寿司市場の成長を支えているというものである。週に1回以上回転寿司を利用するという事は年間50回以上回転寿司を利用している事になり、このヘビーユーザーに愛される事が回転寿司の成功の秘訣であると結論づけている。

スシローのIR資料で競争優位の源泉という資料を見てみると、いかの3点を明確にしてあった。

【仕入】
競合よりもコストをかけより良い食材を使用、業界最大手ならでの価格交渉力

【商品】
「すし」のうまさを基本とし、進化させる。原価率50%。お客様を飽きさせない2週間に1回の販促商品。

【ITシステム】
ICチップ内蔵の皿を用いたビッグデータ分析。ITを活用した効率的な店舗 運営。タッチパネル注文システムにより注文を受けてから出来立てのすしを 提供。

 

リーマンショック後に回転寿司業界全体が低価格化に走り、スシローも低価格戦略に走り失敗した体験があるが、以降は高価格の期間限定メニューを導入し、季節感や目新しさを打ち出し「質」を追及した事で他社との差別化が進み結果として業績の拡大につながった。

スシローはヘビーユーザーに愛される商品開発をするために質の高い食材を使用するために、原価率を業界最大レベルの50%にし、ビッグデータ分析で2週間に1回の販促商品を開発し続けている事が顧客を飽きさせずにヘビーユーザーに愛される秘訣なのだと推測する。

スシローの一店舗当たり年商は、値引きをやめた2010年度に2億8,400万円だったが、2020年度には3億4,500万円へと21%上昇した。この背景には2016年から都市型店舗を出店し始め、賃料が高くなる都市型店舗は、100円皿は120円(税込み132円)、150円皿は170円(税込み187円)、300円皿は320円(税込み352円)など、メニューをそれぞれ20円ほど高く設定している事も要因の一つである。スシローの一店舗当たりの年商水準は、業界2位のくら寿司(2億6400万円)より30%以上高い

2020年にコロナ感染が広まり早い段階でテイクアウトに注力し始めた事でテイクアウト商品の高単価、高利益率が業績を押し上げ最高益を更新した。2021年9月期のスシローの営業利益率は前期比3.63ptも改善し、9.51%となった。

なお今期(2022年9月期)については京樽買収により、不採算店の影響で減益予想をしている。

 

スシローの圧勝にはデジタル化が貢献

 

ダイヤモンド・チェーンストア・オンラインの2021年4月28日号で “コロナ禍で強さを発揮! “回らない寿司屋”から始まったスシローがデジタルに注力した理由とは”と、スシローのDX戦略が取り上げられている。

スシローは元々大阪でカウンターの立ち食い寿司として出発した。現在は600店を超える店舗数であるが、デジタル化が進んだのは人手不足が発端であったとの事である。店舗スタッフを募集しても全く人が来ずに採用費用が嵩むという経験から少人数で店舗運営をするためにデジタル化をすすめてきたというのが実情である。

スシローがカウンター寿司店から回転寿司店に変わった時に客は店舗に押し寄せたが利益率が低いという問題があった。この原因を探るために全ての皿にICタグをつけ、どの寿司ネタがいくつ取られているのか、廃棄になる寿司ネタには何が多いかなどの情報を収集することで、廃棄率を下げ利益率をあげることに成功した。このICタグからビッグデータ分析がされてメニュー開発に役立っている。

次にデジタル化したのがタッチパネルの導入であった。スシローの店舗フォーマットはキッチンと客席が別れている。レーンの中に職人が立ち、注文を受け付けるフォーマットを用いていた時期もあったが、より効率性を求める中でキッチンと客席の完全分離を選んだ。

しかし弊害として、客席までスタッフが都度注文を聞きに行く必要が出てきてしまった。この手間を省くため、各テーブルにインターホンを設置する方法に変更したが、それでも応答して注文を書き起こし、キッチンに伝達する人員が必要になる。これらの解決策として導入されたのがタッチパネル式注文だ。そこに自動案内やセルフレジといった接客の自動化が後から加わった、というのがスシローのデジタル化の流れである。

スシローは一部店舗でAI(人工知能)による画像認識技術を使用した「画像認識による自動会計システム」を導入している。席の目の前にある通常レーンの上流側と下流側に小型カメラを設置し、客が取った皿の種類や数を認識する仕組みだ。小袋のワサビや塩といった調味料が入った皿も認識し、カウントしないように調整しているという。これを導入した店舗であれば、入店から退店まで店員と一切やりとりをしない、完全非接触の接客が可能になる。また、アプリやwebサイトなどで注文したテイクアウトメニューはテイクアウト専門店舗内にある自動土産ロッカーに入れられ、読み取り機にQRコードをかざすとロッカーの鍵が開く仕組みになっている。(出典:日経XTREND 2021年12月6日)

 

経営指標比較

 

Food&Life Companies (3563)2019年9月期2020年9月期2021年9月期
売上総利益率51.9%52.6%54.1%
販管費率44.3%46.1%48.0%
営業利益率7.3%5.9%9.5%
限界利益率9.1%13.6%23.0%
EBITDA19,340百万円27,278百万円41,466百万円
自己資本比率34.7%21.5%21.5%
財務レバレッジ2.9倍4.7倍4.7倍
負債資本倍率0.860.920.99
配当性向26.2%27.0%19.8%
ROE21.0%12.7%20.7%
ROA7.3%2.7%4.5%
ROIC11.3%4.2%4.5%
従業員数2220名2863名N/A
従業員一人当たり売上89,679円71,588 円N/A
従業員一人当たり営業利益6,552円4,213円N/A
くら寿司 (2695)2019年10月期2020年10月期2021年10月期
売上総利益率54.7%55.2%54.7%
販管費率50.7%54.9%56.5%
営業利益率4.0%0.3%N/A
限界利益率-0.1%29.5%16.8%
EBITDA9,526百万円5,640百万円21,692百万円
自己資本比率64.5%51.9%48.7%
財務レバレッジ1.6倍1.9倍2.1倍
負債資本倍率0.016N/A0.0008
配当性向21.0%-301.9%41.7%
ROE8.6%N/A3.9%
ROA5.5%N/A1.9%
ROIC7.0%N/AN/A
従業員数1,882名2090名N/A
従業員一人当たり売上72,335円64,993円N/A
従業員一人当たり営業利益2,909円167円N/A

過去3年のスシロー、くら寿司の経営指標を比較した。実は売上総利益率はくら寿司の方が高い。これはくら寿司ではラーメンやカレー等の寿司以外のサイドメニュー比率が高いために原価を低く抑えられているからである。より少ない人員数で店舗運営をしているスシローは販管費率を低く抑える事が出来ているので営業利益率がくら寿司よりも高い。

この二社の経営指標を比較して言える事はくら寿司の方が自己資本比率が高く、借入が低いが経営効率は低い。一方スシローは借入をしてより大胆に投資をしているが、その分リターンも高い。直近決算ではテイクアウト比率が上がり限界利益率が前期比9.4ptも上昇した。スシローはコロナ禍というピンチをチャンスに変えた結果になった。

 

中期経営計画

Food & Life Companiesが先月発表した中期経営計画では2022年度から2024年度までの三か年の最終年度の2025年9月期に連結売上高4,200億円、連結当期利益200億円を目標にしている。海外売上高は900億円超を目指している。

川上では養殖事業者や大学研究機関の最先端技術への成長投資を行い、競争優位性が高く、持続可能な原材料調達(高品質・安定調達量)を目指す。

川中では需要予測AIシステムを構築し、物流会社、生産・加工メーカーとデータ連携することにより、在庫管理・物流を最適化し、更なるフードロスの削減に取り組む。

国内スシローはテイクアウト店舗の拡大、海外は中国大陸を中心に出店を加速、京樽・新業態は京樽・海鮮三崎港のリブランド及び杉玉のアルコール販売規制解除後の成長により拡大の予定である。海外進出加速の一環としてスシローブランドの向上目的でドバイ万博(2021年10月~2022年3月)に出店している。また、ハラル対応も完了している。

 

過去3年のキャッシュフロー状況

Food & Life Companies (3563)2019/92020/92021/9
営業キャッシュフロー17,309百万円23,923百万円31,679百万円
投資キャッシュフロー▲10,682百万円▲14,879百万円▲17,286 百万円
財務キャッシュフロー▲8,578百万円▲6,724百万円2,107百万円
現金及び現金同等物期末残高10,341百万円12,665百万円29,367百万円

Food & Life Companiesは利益拡大と減価償却増で営業キャッシュフローは増加している。2021年9月期に財務キャッシュフローが黒字になったのは長期借入金の額が借入金の返済額を上回ったためである

 

くら寿司(26952019/102020/102021/10
営業キャッシュフロー8,626百万円8,935百万円4,738百万円
投資キャッシュフロー▲6,602百万円▲8,336百万円▲9,477百万円
財務キャッシュフロー2,560百万円▲1,164百万円2,458百万円
現金及び現金同等物期末残高20,965百万円20,611百万円18,748 百万円

くら寿司の2021年10月期の営業キャッシュフローが大幅に低下したのは多額の助成金収入がマイナス計上されたためである。2019年10月期と2021年10月期の財務キャッシュフローが黒字になったのは連結子会社の増資による収入が支出を上回ったためである。

 

投資判断

やはり業界首位のスシローは今のところ死角が見つからない程圧倒的に強い。Food & Life Companies社長の水留氏の経歴であるが、企業再生支援機構でJAL再建を手掛けた経験のある数少ないプロ経営者である。スシローはIoTなどという言葉が世の中に知られるずっと前から寿司皿にICチップをつけて分析し、廃棄率を下げ利益率を向上させた事から始まり、人手不足を解消するためにデジタル化をずっと進めてきたために圧倒的に有利である。株価バリュエーションは予想PERが42.5倍、PBRが7.9倍、EV/EBITDAが18.1倍、PSRが1.7倍。

一方くら寿司は予想PERが49.1倍、PBRが2.9倍、EV/EBITDAが15.9倍、PSRが0.8倍。PERベースで見るとFood & Life Companiesは割安に感じる。

今後回転寿司業界は一層寡占化が進み、弱小チェーンからパイを奪いスシローがシェアを拡大し、高い利益成長を達成しそうである。

 

投資アイデア

他の投資家が何に注目しているか、アイデアブックでご確認いただけます。

 

プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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