2022年8月8日にメルカリが2022年6月通期決算結果を発表した。

 

売上高1,470億円前年同期比38.6%増
営業損益▲37億円赤字転落
当期損益▲76億円赤字転落
EPS▲47.34円

 

2021年6月期はコロナでステイホームする人が日米共に増加した巣籠特需のために黒字決算となったが、既に米国では経済が正常化しており、日本でもテレワークを実施している企業の割合も減少し、2022年6月期は再び赤字に転落となった。盤石と思われていたメルカリJPのGMV(流通総額)の伸び率の鈍化が表面化した。8月8日の決算発表の翌9日はメルカリ株は失望売りから急落し、前日終値比9%以上下落してひけた。メルカリは2018年6月に上場した。今までに最終損益が黒字だった決算は2021年6月期一回のみである。

メルカリは国内での圧倒的覇者の地位も揺らいでいるのかこのレポートで日米のフリマアプリ市場のアップデートをしたい。

 

【メルカリJPのKPI】

(単位:億円)2018年6月2019年6月2020年6月2021年6月2022年6月
GMV (流通総額、億円)3,4684,9026,2597,8458,816
売上(億円)334462587751850
調整後営業損益(億円)7494185242225
MAU(月間アクティブユーザー数、100万人)10.513.5717.4519.5420.4
テイクレート(売上高÷取扱高)9.63%9.42%9.38%9.57%9.64%
MAUあたりのGMV/月 (円)2,734.23,010.32,989.03,345.73,601.3
MAUあたりの売上/月 (円)263.3 283.7 280.3 320.3347.2
MAUあたりの営業利益/月 (円)58.3 57.7 88.3 103.291.9

 


(出所:メルカリ2022年6月期決算説明会資料

メルカリJPのGMVは2021年6月期は25.3%伸長した。ところが2022年6月期はGMVの成長率はほぼ半分の12.4%まで鈍化してしまった。テレワーク比率が低下し、巣籠特需が失われた事とユーザーを手数料がメルカリより低い他のフリマアプリに取られたと推測できる。また調整後営業損益が2022年6月期には7%下落した。これに関してはメルカリJPでクレジットカードの不正利用が4Qにあり、EMV-3Dセキュア(クレジットカード会社が提供するクレジットカードの本人認証を行うセキュリティ機能)を実装、金銭的被害の補填等から調整後営業損益が赤字に転落した。

メルカリの手数料は商品代金の10%、楽天ラクマの手数料は6%+税、PayPayフリマの手数料は5%である。個人情報保護のために匿名配送を好むユーザーは増加していると思うが、3社とも匿名配送に対応している。どこのフリマアプリも使い勝手が似たようなものであればより手数料が安い所に流れるのは自然な事である。

弊社でメルカリを個別に取り上げたレポートを書いたのは約2年前であるが、盤石であると思われた国内のフリマ市場も状況が大分変化したようである。2年前にメルカリの個別レポートを書いた時には国内のフリマ市場ではメルカリが圧倒的に強く、このままメルカリが国内のフリマ市場の一強状態が続くと思っていた2年前はネットオークション市場とフリマアプリ市場からなる国内のリユースのC-to-C市場ではメルカリが破竹の勢いであり、ヤフオク!はどんどんシェアをメルカリに奪われていた状況であり、楽天のラクマやPayPayフリマは存在していたが、メルカリを脅かす存在ではなかった。

この2年の間にPayPayが派手なプロモーションを繰り返しQRコード決済の圧倒的なトップシェア(市場シェア67%)を獲得し、PayPayフリマもメルカリの手数料の半分という事でかなりユーザーが増えてきたようである。Zホールディングス(PayPayの親会社)の決算説明会資料によると、2022年3月期通期のリユース市場(ヤフオク!、PayPayフリマ)のGMV(取扱高)は前期比9.2%増の9,288億円であった。ヤフオク!とPayPayフリマの内訳は開示されていないが、2013年度(2014年3月期)以来の高成長でPayPayフリマの拡大も貢献したとの事である。PayPayの拡大政策により再びZホールディングス勢が盛り返していると推測される。

現状PayPayは新規ユーザー獲得はメルカリに比べてかなり有利であると言える。PayPayフリマは初回の販売手数料の無料を2022年2月初旬に開始した。PayPayフリマの初回手数料無料化開始の後メルカリは2022年6月期4QにGMV(流通総額)、MAU(月間アクティブユーザー数)両方が減少した。メルカリのGMV、MAUの推移を見るとGMVが下落した事が3回あるが、GMV、MAUの両方が下落したのは2022年3月期4Qが初めてであった。この事のみを見てPayPayがメルカリより多く新規ユーザーを獲得しているとは言えないが、今後もメルカリのGMV、MAU共に減少するようであればPayPayに新規ユーザーを取られている、あるいはメルカリからPayPayフリマに乗り換えが起こっていると言えるだろう。

メルカリも以前から招待キャンペーンをちょくちょくやっていたが、フリマアプリを頻繁に利用するヘビーユーザーにとっては手数料が常にメルカリの半分であるPayPayフリマは魅力的であり、乗り換えあるいは両方のフリマアプリを併用している可能性がある。

【メルカリUS】

それではメルカリUSの状況はどうだろうか?

   

                                                                                                                 (出所:メルカリ2022年6月期決算説明会資料)

メルカリが米国に進出したのが創業翌年の2014年。サービスローンチは2015年6月である。既に米国市場でサービス・ローンチをして7年以上の年月が経っている。調整後営業損益が黒字だったのは2021年6月期4Qの一回のみである。この時は米国政府による現金給付の影響もあり、GMV成長率が前年同期比+6%に対し、売上高は同約+75%を達成し、Mercari Localのローンチ(次期1Qの 7/20)を控えていた中で投資を控えたために黒字化した。しかし、2022年に入りロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとしてインフレが加速し出品単価が上がり購買が鈍化した。エネルギー価格の高騰から配送料の値上げも影響した。2022年6月期のGMVは前期比▲2%の11.4億ドルとなった。一方MAUは同6%増の490万人であった。メルカリUSの調整後営業利益(営業利益から、株式報酬・減価償却費を控除)は▲8,700万ドルであった。(2021年6月期は▲3,900万ドルであった。)

メルカリの米国での競合はどうだっただろうか?

上場していない競合に関してはKPIの開示義務がないために比較不可能であり、上場している二企業を選んだ。米国国内での上場しているマーケットプレイス企業二社、EtsyとPoshmarkの2022年1Q、2QのKPIは以下の通りである。

 

Etsy (ナスダック)1Q GMV 32.5億USD3.5%2Q GMV 30.3億 USD▲0.4%
1Q Active buyers 9,510万人4.9%2Q Active sellers 9,395万人3.8%
1Q Adj EBITDA 1.59億USD▲13.5%2Q Adj EBITDA  1.62億USD16.7%
Poshmark(ナスダック)1Q GMV 493.4mn USD12%2Q GMV 483.5mn USD8%
1Q Active buyers 7.8mn16%2Q Active buyers 8mn14%
1Q Adj EBITDA ▲4.7mnUSD前年同期4.8mnUSD2Q Adj EBITDA ▲9.8mnUSD前年同期6.5mnUSD

 

Etsyは2005年創業のハンドメイド、ヴィンテージアイテム、美術品、宝石等高額の商品の売買ができるマーケットプレイスである。2015年IPOをし、ナスダック上場。米国内のみならずカナダ、ドイツ、英国、アイルランド、フランス、インド、日本に進出している。手数料は米国国内では売価の9.5%プラス0.45ドル。時価総額は135億ドル。5年間の純利益のCAGRは56.7%である。

Poshmarkは2011年創業のアパレルを中心に売買ができるマーケットプレイスである。2021年IPOをし、ナスダック上場。米国以外にカナダ、オーストラリア、インドに進出している。手数料は米国国内では15ドル未満のアイテムでは、1個あたり2.95ドルの手数料、 15ドル以上のアイテムに関しては、リスティング1件あたり20%の手数料である。時価総額は10億ドル。IPOの前年の2020年通期は黒字を達成。インフルエンサーを使ったアフィリエイト・プログラムを行っている。

2021年は米国では政府からのコロナ関連の給付金が配布され、テレワーク比率も高かったために両社ともに業績が伸びた。2021年の巣籠特需のためにハードルが高かったが、2022年に入って両社が減速している印象はない。EtsyはGMVの規模やactive buyerの人数も多いが、2QにGMVがマイナスになったが、ほぼフラットと考えてよいだろう。ロシアによるウクライナ侵攻の後にエネルギー価格を始めとしてインフレが加速した割には買い控えはあまり起きなかったと解釈できる。Poshmarkは1QのGMVは12%増、2Qは8%増、active buyerは二桁増と好調である。

以上のようにメルカリUSの米国内での競合2社は2021年の反動やウクライナ危機からのインフレの影響による減速がKPIを見る限り感じられない

アナリストビュー

非上場のマーケットプレイスの競合に関しては情報がないので判断できないが、上場企業の競合2社に関しては成長鈍化は感じられない。メルカリUSは何かあるカテゴリーに特化といった特徴がない印象である。Etsyは創業から既に17年、事業規模も拡大し、財務基盤もしっかりしているためにメルカリUSの比較に相応しいとは言えず、Poshmarkはまだ創業時期がメルカリと近くより比較に適している企業だと思うが、ファッションに特化しているためにインフルエンサーを使ったマーケティングがやりやすいと考えてよいだろう。一方メルカリはオンライン版ガレージセールのような不用品を売るマーケットプレイスのようなイメージでインフルエンサーを使ったアフィリエイトプログラム等には適していない印象を受ける。そのためにテレビ等の媒体を使った広告で知名度拡大を図っているのだろう。

米国市場に関しては今後も厳しい状況が続くのではないかと推測する。米国ではインフレがピークアウトしたという見方も一部あったが、8月のコアCPIが前年比+6.3%と市場予想を上回り米株式市場が大幅下落したが、これからリセッション入りする可能性が充分あると考えている。更に厳しい経済状況になった時にメルカリUSはどのように事業を成長させていくのだろうか気になるところである。

以上メルカリJP、メルカリUS及び日米の競合他社の状況についてのアップデートをした。メルカリJPは盤石な業績でメルカリUSの損失をカバーという状況が続いていたが、国内のフリマ市場はPayPayフリマがメルカリの脅威になりつつあり、最早メルカリが圧倒的覇者とは言えない状況になっているのを感じる。

また米国に関しては2021年は巣籠特需と給付金で大きくGMV、MAUが伸びたがウクライナ危機に端を発したインフレによりGMVが2022年6月期4Q(上場同業他社の2Q)に12%減少と苦戦している。なお、メルペイに関しては2022年6月期に初の通期調整前営業黒字を達成し順調な業績である。

メルカリJP、メルカリUSともに今期のKPIがどのように推移するのか注視したいと思う。

執筆者プロフィール

株式会社pafin 

マーケットアナリスト 西村 麻美

西村麻美/mami.png

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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