【東京海上ホールディングスの決算ポイント】

コロナ保険や自然災害により発生保険金は増加したものの北米を中心に海外事業が拡大中!

東京海上の株価情報

株価

(2022/8/22)

時価総額

自己資本比率

ROE

ROIC

7,716円

5.1兆円

13.8%

11.1%

N/A

PER(実績)

PER(予想)

PBR

配当利回り

EV/EBITDA

12.57倍

12.11倍

1.36倍

3.89%

N/A

東京海上ホールディングス:2023年3月期1Q決算結果

経常収益1兆6,287億円前年同期比11.9%増
経常利益1,653億円同▲23.8%
四半期純利益1,246億円同▲22%

 

増収減益の決算だった。1Qの業績は海外事業が牽引し、正味保険料が前年同期比11.2%増、生命保険料が同8.3%増となった。為替を除いても正味保険料は同7.0%増、生命保険料が同8.3%増と通期予想を上回るペースで進捗した。一方国内は、連結消去される⼦会社配当⾦の増加を除くと、円安や六月に発生した雹災(ひょうさい)を含む自然災害の増加等の影響により減益となった。その結果四半期純利益は同▲351億円、22%減となった。国内の進捗状況は期初予想通り、海外に関しては予想以上に好調であった。グループ全体の修正純利益は前年同期比▲16.7%の1,392億円となった。

 

各事業の事業別修正純利益は

TMNF(東京海上日動火災保険)354億円前年同期比▲57.8%
通期予想 1,730億円 
AL(東京海上日動あんしん生命保険)59億円 同▲43.8%
通期予想 420億円 
海外保険事業 669億円同15%増
通期予想 2,630億円 


 TMNFの保険引受利益は想定通りの堅調なトップラインの一方、海外大口事故の増加やコロナ影響(想定を上回る交通量の回復、及び、コロナ保険⾦の拡大)といった一過性の影響により、進捗率は低位に留まった。(Actualの1Q進捗率:22年度 25.3% vs 過去5年平均34.3%) 事業別利益は上記要因に加えて、関東の雹災に伴う自然災害の進捗率の高さ、円安による外貨建⽀払備⾦の増加等により進捗率は低い。
(Actualの1Q進捗率:22年度 20.5% vs 過去5年平均48.0%)発生保険金が前年同期比30.2%増と高かった事等により修正純利益が大幅減少となった。TMNFのE/I損害率は同12.8pt上昇の64.5%、コンバインド・レシオは同13pt上昇の96.0%と通期予想を上回って推移した。

 

損保の発生保険金の種類別概況は以下の通りであった。

火災保険関東の雹災(ひょうさい)、南アフリカ洪水、コロナ(休業補償)、為替など、主に一過性の影響等に
より、通期予想を上回るペースで推移した。642億円 (前年同期比87.8%増)
海上保険主に円安の影響により、通期予想を上回って推移した。130億円 (同30%増)
傷害保険通期予想の範囲内で推移しているが、コロナ感染者に対する発⽣保険⾦が⾜元増加した。249億円 (同8.1%増)
自動車保険関東の雹災、コロナ影響の反動等により、前年同期⽐で増加し、通期予想を上回るペースで推移
した。1,715億円 (同18.7%増)
その他新種保険円安の影響により、前年同期⽐で増加し、通期予想を上回って推移した。619億円(同34.6%増)


TMNFの資産運用等損益は前年同期比65.5%増の1,380億円であった。ネット利息及び配当⾦収⼊(インカム)は前年同期⽐では、海外⼦会社配当⾦や政策株式配当⾦が増加したことにより同56.4%増の1,120億円だった。増益売却損益等計(キャピタル)は前年同期⽐では、円安により⾦融派⽣商品費⽤が発⽣(大部分は為替差損益と相殺)一方、政策株式売却の順調な進捗による有価証券売却損益の増加もあり同77.6%増の364億円となった。なお、政策株式売却額は480億円(前年同期⽐220億円増)売却益は380億円(同170億円増)であった。

国内生保事業の新契約年換算保険料は回払変額保険の販売を中⼼に順調に進捗し、前年同期比5.5%増の119億円だった。事業別利益は、コロナ関連の影響の増加や、円安進⾏に伴う⾦融派生商品費用の増加等により、通期予想を下回って推移し同▲44.1%の59億円だった。⼀過性の影響等を除いた進捗率は期初の予想通りである。

海外保険事業は北米のPHLY、Delphi、TMHCCは想定以上に好調であった。北米三社の正味収入保険料はPHLYでは計画を上回るレートアップ(1Q実績: +9%)や更新率、新規契約等により、計画対⽐順調に推移した。Delphiでは団体⽣保・就業不能保障保険が好調であり、計画対⽐順調に推移した。(なお、前年同期⽐では、21年に買収したSSL社の新規連結効果が含まれる)TMHCCは良好なレート環境を背景に高いレートアップ(1Q実績: +11%(A&H・Surety・Creditを除く))と引受拡大を実現し、全セグメントで計画対⽐順調に推移した。北米の3社の利益は前年同期比34.7%増の638億円となった。

欧州のTMKは一過性の影響(ロシア・ウクライナ戦争に係るリザーブ計上(▲約40億円)や⾦利上昇によるFVTPL(純損益を通じて公正価値)の評価損計上等)により計画を下回っているが、保険引受の基調は良好であるが1Qの事業別損益は▲1億円であった。

中南米ではインフレに伴う修理費単価の上昇等による自動⾞のロス悪化を主因として計画を下回っているが、レートアップや引受⾒直し等の取り組みを着実に進めており、⾜元では改善傾向にあり1Qの事業別利益は前年同期比79.1%減の4億円であった。アジア・オセアニアは前年同期⽐ではコロナ影響の反動で減益となったが、計画対⽐では順調に推移し1Qの事業別利益は同59%減の36億円だった。海外の生保は市場変動に伴うリザーブの積増を主因として計画を下回って推移し1Qの事業別損益は▲15億円であった。富裕層向け保険のPureは契約ボリュームの季節性を考慮した1Q計画対⽐では概ね計画通りに推移し、1Qの事業別利益は同37倍の38億円であった。

東京海上HLD:2023年3月期予想

通期の会社計画の業績予想は従前予想を維持した。2022年10月1日を効力発生日として1対3の株式分割を行うと7月の取締役会で決定した。そのためEPSの金額は株式分割を考慮した金額である。
 

経常利益6,000億円前期比5.7%増
当期利益  4,300億円同2.3%増
EPS212.86円
一株当たり配当金未定

決算発表と同時に東京海上は子会社の東京海上日動火災保険を通じて、台湾4位の損害保険会社で合弁運営する新安東京海上產物保險股份有限公司(台北市。正味収入保険料558億円、税引き前利益67億8000万円、純資産509億円)の株式1.24%を追加取得し、子会社化することを発表した。東京海上が追加取得に動く背景には、台湾政府によるコロナ政策の突然の変更により4月以降に新型コロナウイルスの感染者が急増し、新安は「コロナ保険」を販売しており、同保険の支払い増で損失が拡大し増資が必要な状況になっていた。新安東京海上においても、コロナ保険⾦を主因とする当期純損失▲539億円(東京海上持分)を2Qに計上する予定である。新安の損失は計上するが、北米を中心に海外事業が好調である事や自然災害の本格シーズン前であるために現時点では通期予想を変更しない。

 

アナリストによる投資判断

8月5日の決算発表後に週末を挟んで8日に東京海上の株価は減益決算に反応して5日終値比4.8%下落した。コロナによる発生保険金の増加がここまで業績に影響を与えるとはサプライズであった。しかしその後は株式分割がポジティブな評価である事、米国及び欧州での金利上昇観測により上昇している。北米三社が順調にレートアップを実施して業績が拡大している事が下支えとなり海外事業が拡大しており、四半期純利益の53%が海外事業からの利益であった。現在の株価で予想PERが12.11倍、PBRが1.36倍と割安であり、配当利回りは3.89%である。東京海上は金融セクターの中でも抜群の経営力の高さであり、中長期的な優位性は不変である。

執筆日:2022年8月22日

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執筆者プロフィール

株式会社pafin 

マーケットアナリスト 西村 麻美

西村麻美/mami.png

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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