執筆:西村 麻美

NTTグループの株価情報


株価
(2022/5/19)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
3,877円 14兆円 34.7% 14.9% 13.5%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
11.7倍 11.5倍 1.7倍 3.1% 4.0倍


2022年3月期通期決算

NTTグループの2022年3月期通期決算の結果は

営業収益12兆1,564億円(前期比1.8%増
営業利益1兆7,686億円(同5.8%増
当期利益1兆1,811億円(同28.9%増
海外営業利益率6.3%(同3.3pt改善
EPS329円
一株当たり年間配当金115円

売上、利益ともに過去最高を更新した好決算であった。
純利益が初めて1兆円を超えた。
営業利益ベースでは全セグメント増益で特にNTTデータの貢献が大きかった。
営業利益の増益幅に比べて当期利益の増益幅が大きいのは営業外の金融収益の増加、持分法による投資損益の大幅増加によるものである。
なお、セグメント分けを以下のように見直した。


変更前変更後
移動通信事業
(ドコモ)
総合ICT事業
(ドコモ、コミュニケーションズ、コムウェア)
地域通信事業
(東日本、西日本)
変更なし
長距離、国際通信事業
(コミュニケーションズ、Ltd)
コミュニケーションズは総合ICT事業へ
Ltdはグローバル・ソリューション事業へ
データ通信事業
(データ)
グローバル・ソリューション事業
(データ、Ltd)
その他の事業
(コムウェア、不動産等、エネルギー等)
その他
(コムウェアは総合ICT事業へ、不動産

決算上では新セグメントをベースに前々期(2021/3期)と比較している。


営業利益ベースの各事業セグメントの貢献内訳は

総合ICT事業126億円
地域通信事業198億円
グローバル・ソリューション事業632億円
その他(不動産、エネルギー等)161億円
セグメント間取引消去▲145億円

全事業セグメントが増益貢献をした。


総合ICT事業(ドコモを含む)の決算結果は

営業収益5兆8,702億円(前期比0.2%減
営業利益1兆725億円(同1.2%増
当期利益7,521億円(同0.3%増
設備投資6,986億円(同4.9%減


ドコモ単体の決算結果は

営業収益4兆7,138億円(前期比0.2%減
営業利益9,279億円(同1.6%増
当期利益6,480億円(同3.0%増
設備投資5,481億円(同3.7%減


NTTコミュニケーションズ単体の決算結果は

営業収益1兆476億円(前期比2.1%減
営業利益1,351億円(同1.6%減
当期利益1,005億円(同13.1%減
設備投資1,019億円(同4.2%増

総合ICT事業全体で対前年増益を達成した。


ドコモに関しては予想通り減収増益の決算結果であった。
減収に関しては戦略的値下げを実現し、顧客基盤拡大へ競争モメンタムを回復した。
ahamoやU30ロング割により中大容量の顧客を確実に確保し、エコノミーによる新規獲得も効果が表れた。
4G投資抑制とともに、既存周波数帯を主軸とした5G展開を図り、NWコスト効率化と5G展開を両立した。
金融・決済、法人ソリューションを中心に着実な成長を実現した。
既存サービスの効率化にも取り組み、四半期を追うごとに利益は拡大した。
ドコモの営業利益はNTTグループの営業利益の52.5%を占めた。


NTTデータの決算結果は

受注高2兆4,008億円(前年同期比8.0%増
売上高2兆5,519億円(同10.1%増
営業利益2,126億円(同52.8%増
当期利益1,430億円(同86.1%増
EPS
一株当たり年間配当金21円(前期18円

海外事業の規模拡大及び収益性の改善、国内事業の規模拡大、円安等の要因により売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。
営業利益段階では国内ではビジネス拡大のための先行投資や公共セクターでの不採算案件の発生もあったが、北米やEMEA(欧州・中東・アフリカ)での事業構造改革の効果や増収、円安等により前期比52.8%増の734億円と大幅増益となった。
円安の効果もあるが、海外事業の売上比率は40.2%となった。


NTTとNTTデータは2022年5月9日、海外事業を統合すると発表した。
両社は2022年10月に共同出資で海外事業会社を設立する。
またNTTはNTTデータとの連携強化を狙い、1000億円を上限にNTTデータの株式を取得する形で追加出資する。
出資比率は最終的にNTTデータが55%、NTTが45%となる見込みである。
次に2023年7月に、NTTデータが持ち株会社体制に移行し、持ち株会社の傘下に国内事業会社と海外事業会社をぶら下げる形とする。
NTTによるNTTデータの完全子会社化の観測も出たがそれはないようである。


2023年3月期予想

会社発表の2023年3月期の業績予想は

営業収益12兆6,000億円(前期比3.6%増
営業利益1兆8,200億円(同2.9%増
当期利益1兆1,900億円(同0.8%増
EPS340円
一株当たり年間配当金120円(前期115円

増収増益を予定している。
全事業セグメントで増益を予定している。
今期に関しても増益貢献が一番大きいのはNTTデータになる見込みである。
継続的に行っている自己株式取得であるが、今期も2023年3月末までに4,000億円の自己株式の取得をすると発表した。


アナリストによる投資スタンス

通信企業の中でのNTTグループの圧倒的な優位性は変わらず、中長期的な成長ストーリーは不変である。
決算結果にサプライズはなかったが、業績の安定感、NTTデータの海外ビジネスの改善が評価されている。
コストプッシュインフレ、金利先高観測にも業績に影響を受けないNTTは年初来ずっと株価は上昇基調である。
現在の株価バリュエーションは予想PERが11.5倍、PBRが1.7倍、EV/EBITDAが4.0倍、配当利回りが3.1%と割安な状況である。
2023年度のEPS370円を使っての予想PERは10.5倍である。


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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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