執筆:西村 麻美

 

【注目ポイント!】

ストリーミング市場は過当競争時代に突入で成長株バリュエーションはもはや望めないか⁈

株価
(2022/4/20)
時価総額
(百万ドル)
自己資本比率ROEROIC
226.19USD100,500百万USD38.7%11.59%14.93%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR配当利回りEV / EBITDA
20.12倍18.43倍5.84倍N/A8.41倍

 

2022年1Q決算

Netflixの2022年1Q決算結果は

売上高78億6,800万ドル(4Q21比2.1%増(前年同期比9.8%増
営業利益19億7,200万ドル(同212%増(同0.6%増
四半期純利益15億9,700万ドル(同163%増(同6.4%増
希薄化後EPS3.53ドル  
会員数2億2,164万人(同20万人減 

2021年4Q決算発表時に会社側がガイダンスとして発表していた1Qの新規加入者数250万人増にはるかに届かないどころか20万人減少の結果となった。
会員数に関してはロシアのウクライナ侵攻後の3月上旬にロシア向けサービスを停止した事により70万人の会員減となり、もしロシア向けサービス停止がなければ50万人増であったとの説明が株主へのレター内であった。
新規加入者の減少は2011年以来10年ぶりの事であった。
市場予想を大幅に下回る1Qの新規会員数を受けて米国時間4月19日の時間外取引でNetflix株は25%以上下落した。
翌20日は35%の下落となり、年初来騰落率は▲62.45%となった。

売上高は4Q21比2.1%増に対して営業利益は同212%増と大きく伸びたが、Netflixは4Q21にコンテンツ・リリースが多かった為に製作費、マーケティング費用、開発費等のコスト負担が突出して大きく営業利益が低下したが、1Q22になりコストが通常レベルに戻り営業利益が4Q21比大幅増となったように見えるが前年同期では0.6%増とほぼフラットである。
四半期純利益は4Q21比163%増だったが、前年同期比では6.4%減であった。1Qの営業利益率は25.1%と4Q21の8.2%から16.9pt回復した。
売上高、EPSともに市場予想平均を上回った。

 

Netflixは1月に米国、カナダ向けサービスを11%~14%値上げをしたが、これを受けて1Qに 米国/カナダでは会員数が63万3,000人減少した。
3月に英国で10%~17%、アイルランドで13%~17%の値上げを発表した。個別に英国、アイルランドでどの位会員数が減少したかとの開示はないが、1Qに欧州、中東、アフリカ地域で会員数が30万3,000人減少した。
また中南米では1Qに値上げをしなかったが会員数が35万1,000人減少した。アジア太平洋地域のみ1Qに会員数が108万7,000人増加した。
アジア太平洋地域の中で特に業績が良かったのは日本、インド、フィリピン、タイ、台湾であった。
新規加入者数減少に対する施策として既存の広告なしの配信ではなく広告を付けて月額料金を引き下げるという事も検討する方針である。

 

今回の決算発表で浮上した問題にアカウントの不正共有問題がある。
プランによって同時視聴のディバイスの台数が決まっているが、会員とパスワードを家族ではないのに共有し、所謂ただ見をしているユーザーが全世界で約1億人いると会社側では推定している。
Netflixでは昨年から共有しているユーザー達をどのようにマネタイズしようかと検討をし始め、中南米では契約会員が共有しているユーザー世帯の分を負担する等の施策を試験的に講じており、中長期的にマネタイズする余地が大きいとの見解を表明した。

 

キャッシュフロー及び資本構成であるが、営業キャッシュフローは前年同期比18.8%増の9億2,300万ドル、フリーキャッシュフローは同15.9%増の8億ドルとなった。
1Q中にドイツのScanline VFXとテキサスのゲーム・スタジオのBoss Fight Entertainmentの買収を完了した。
両社の買収で1億2,500万ドルのキャッシュ・アウトフローが1Q中にあった。
1Q末時点の有利子負債残高は146億ドル、現預金は60億ドル、純負債は86億ドルであった。
負債資本倍率は1.14であった。
Netflixは有利子負債のターゲットを100~150億ドルとしているが、買収等で上限に近いレベルとなったために1Qでは自社株買いを行わなかった。

 

2Qの会社発表のガイダンスであるが、新規会員数は200万人減としている。
値上げによる成長鈍化は加速すると会社側は見ており、通常2Qは1Qより新規会員数は減少する傾向にある。
売上高は前年同期10%前後の成長を予想している。
2022の営業利益率のターゲットは通期で19%~20%としている。

 

SVOD(定額制動画配信)市場は飽和した市場であり過当競争時代に突入したとハッキリした決算結果であった。
会員数の減少が値上げをした地域のみならず、値上げをしていない地域でも会員数は減少し、唯一会員数が増加したのはアジア太平洋地域のみであった。
創業以来Netflixは広告なしのコンテンツ配信をしてきたが、広告なしに拘ると価格に訴求されて競合に流れるという事態が起きた。
SVODのマーケットシェアであるが、JustWatchという複数のストリーミングサービスを検索することができる アプリの集計によると202年12月末時点のデータであるが、首位Netflixは25%、二位のアマゾンのPrime Videoは19%、三位のDisney+は13%、同じく三位のHulu(Disney傘下)は13%、以下HBO Maxは12%、Apple TVが5%、Pramount+が3%、その他が10%という結果であった。
アマゾンは3月に“ジェームス・ボンド”シリーズ、“ロッキー”シリーズ等の作品を持つMGMの買収が完了した。
DisneyはDisney+、Huluを合わせて計26%のマーケットシェアを保有している。
ディズニーはマーベル、ピクサー、“スターウォーズ”シリーズの作品を保有し、Disney+で配信しており、会員数を伸ばしている。
現状のSVODの三強はNetflix、ディズニー、アマゾンの戦いであるが、ディズニー、アマゾン共にストリーミング事業は本業のビジネスへの取り込みの手段という位置付けの印象が強く資本力が圧倒的に違う。
特にNetflixの顧客を奪っている可能性が一番高いのはDisney+であろう。
Netflixは子ども向けコンテンツに弱く、Disney+ではディズニー、マーベル、ピクサー作品と子どもから大人まで楽しめるコンテンツを保有している。
価格面では、一番安いプランでNetflixは9.99ドル、Disney+は7.99ドルであるが、Disney+は広告付きで更に安いプランを今年後半に開始すると発表している。

 

投資判断

SVOD市場の競争激化とNetflixが圧倒的勝者というポジションではなくなったという事が決算ではっきりした今では以前のような成長株としてのValuationはもはや望めないだろう。
決算発表後の失望売りが一巡したら妥当な株価に落ち着くと思われるが、おそらく予想PER10倍台後半から20倍台前半にとどまるのではと推測する。

 

業績推移

(注:Netflix社決算資料に基づきクリプタクト社作成)

 

業績予想

(注:Netflix社決算結果に基づきクリプタクト社作成)

 

投資アイデア

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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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