執筆:西村 麻美

 

【注目ポイント!】

生産能力はアップしたが、稼働率は地政学的リスクを考えるとフルには程遠い?

株価
(2022/7/21)
時価総額自己資本比率ROEROIC
815.12USD844,800百万USD53.1%28.26%N/A22.74*
PER
(実績)
PER
(弊社予想)
PBR配当利回りEV / EBITDA
110.4倍80.2倍24.8倍N/A59.1倍

*直近12カ月の実績値。

 

2022年2Q決算

テスラの2022年度2Q決算結果は

総売上高169億3,400万ドル(前年同期比41.6%増、1Q比9.7%減
営業利益36億3,600万ドル(同87.8%増、同31.6%減)
四半期純利益22億5,900万ドル(GAAP、同97.8%増、同31.9%減)
 26億2,000万ドル(non-GAAP、同62.1%増、同29.9%減)
希薄化後EPS1.95ドル(GAAP)
 2.27ドル(non-GAAP、弊社予想2.75ドル)

過去最高益を達成した1Q比で純利益は約30%減少したものの前年同期比では大幅増益の決算であった。生産能力が最大の上海工場がロックダウンにより長期間閉鎖し、サプライ・チェーンも一時停止した為に納車台数が30万台を割る25万4,695台であった。総売上高169億3,400万ドルのうち146億ドルは自動車事業からの売上で、regulatory credits(排出規制規則に基づき売買されるクレジット)は3億4,400万ドルであった。2Qの営業利益率(regulatory creditsも含む)は前年同期比3.6pt上昇の14.6%となった。自動車事業のみの粗利益率は同0.5pt低下の27.9%だった。フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフローマイナス設備投資額)は同0.3%増の6億2,100万ドルだった。

2Qの生産台数は前年同期比25.3%増の25万8,580万台、納車台数は同26.5%増の25万4,695万台となった。「モデルS/X」「モデル3/Y」の出荷台数内訳は「モデルS/X」が16,162台、「モデル3/Y」が23万8,533万台と量販車がけん引した。

上海工場の停止があったが、2022年6月の生産台数は過去最高を記録した。カリフォルニア州フリーモントの工場での貢献が大きかったようだ。フリーモントでの実際の生産台数の開示はないが、現状の年間生産能力は「モデルS」「モデルY」の生産能力は年間10万台、「モデル3」「モデルY」の生産能力は年間55万台である。4月にオープンしたオースティン工場での生産台数は伸びている状況である。3月にオープンしたベルリン工場では2Qの終わりにかけて生産台数を伸ばし2170電池セル搭載の「モデルY」を週に1,000台生産するようになった。

テスラの車載電池の主な原材料はリチウムであるが、炭酸リチウムの中国でのスポット価格はこの一年間で440%上昇しており、価格に転嫁するためにグローバルで数度にわたり値上げを行った。

2Q末時点で米国在住の10万人以上のテスラ・オーナー達は完全自動運転(FSD)のソフトウェアのベータ版へアクセスできる状況である。

太陽光発電事業は2Qの設置量は前年同期比25%増の106MWとなった。一方蓄電池事業の配備量は同11%減の1.1GWhとなった。発電及び蓄電事業の2Qのセグメント売上高は同8.1%増の8億6,600万ドル、粗利益は黒字を確保し、97百万ドル、粗利益率は11.2%であった。発電及び蓄電事業も半導体を中心とする部材不足であったがサプライヤーを拡大した事等により黒字を確保できた。サービス、その他事業の粗利益1Qにとんとんに限りなく近づいたが、2Qには黒字を確保し56百万ドルとなり、粗利益率は3.8%となった。

1Qから引き続きバランスシートは改善した。2Q末時点の現預金及び短期有価証券の残高は前年同期比12.9%増の183億ドルとなった。2Q末時点の総負債額(車両とエネルギーのプロダクト・ファイナンスを除く)は同98.3%減の6,600万ドルまで低下した。2Q末の負債資本倍率は0.85倍、インタレストカバレッジレシオは86.2倍となった。しかし、フリーキャッシュフローは同0.3%増とほぼフラットで1Q比72.1%減少した。

生産能力は2Qに更にアップし、年間190万台となった。内訳はフリーモント工場65万台、上海工場75万台以上、ベルリン工場25万台以上、テキサス工場25万台以上である。生産能力はアップしたが、半導体不足、サプライ・チェーンの問題により2Qも稼働率は生産能力以下であった。上海工場に関しては2Qのロックダウン中に数千人の従業員を自主隔離させて外部との接触を遮断させた上で工場に送り込むという手段に出たとの情報をメディアで目にしたが、直近の感染者数増でまたロックダウンになるリスクはどの工場よりも高いだろう。また新工場の一つのベルリン工場に関しては、ドイツはロシアからのLNG供給の大幅減少により電力不足の状況であり計画通りの稼働が可能かどうかは現時点では不明である。

 

業績推移

(注:テスラ社決算資料に基づき株式会社pafin作成)

 

業績予想

(注:テスラ社決算結果に基づき株式会社pafin作成)

 

投資判断

現状の世界情勢を考えると稼働率がフルになる事は難しい状況で、3Qの生産台数は2Qと同程度あるいは10%台程度の増加になるのではと考えている。原材料の高騰の中、テスラは値上げをしてマージンを確保しており、利益は少なくとも前年同期比プラスは確保するのではないかと考えている。度重なる値上げがあってもマスクCEO自身によるブランディングの成功により需要が衰えるとは考えづらいと思う。自動車以外の事業(発電及び蓄電事業、サービス、その他事業)で2Qは黒転した事もポジティブな要因であり、3Q以降も黒字を確保するのではないかと予想している。テスラ株の年初来騰落率は▲22.87%(2022/7/21の終値ベース)で今期の市場平均EPS予想の11.81ドルを基にした予想PERは69倍と100倍越えだった時から比べると大分バリュエーションは低下している。しかし、株価については米欧でのインフレが加速している中で金利動向に大きく左右されるだろう。

 

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プロフィール

株式会社pafin
マーケットアナリスト 西村 麻美

西村麻実 / MamiNishimura

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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サムネイル画像クレジット:canadianPhotographer56/Shutterstock.com