9月末は3月決算の企業の上半期の株主優待と配当の権利確定日(9/27水曜日が権利付最終日)である。今回は常に人気のある「高配当銘柄」について取り上げてみたい。一般的に高配当銘柄は配当利回り(一株当たりの年間配当金÷現在の株価)が4%以上とされている。このレポートでは高配当と利益成長のポテンシャルを併せ持つ企業に注目し、安定的な配当収入を確保するとともに、利益成長からキャピタルゲインも狙える銘柄を探す事を目的としている。

目次

  1. 配当取り戦略
  2. 高配当かつ利益成長のある銘柄をスクリーニング
  3. スクリーニング結果 
    1)サンゲツ(8130) 
    2)いすゞ自動車(7202) 
    3)大和工業(6070) 
    4)兼松(8020) 
    5)学究社(9769)

配当取り戦略

配当金を取るために株式を買うことを配当取りと言う。これは、インカムゲインを目的とした投資手法で、特に高配当の割安株は人気になる。2021年、2022年と日本郵船(9101)、商船三井(9104)等の海運株が業績の急拡大と共に年間配当利回りが10%越えと高配当を受け取りつつ株価の上昇でキャピタルゲインも得られ人気があった。2023年9月現在高配当は5%台に留まっている。

具体的な配当取りのやり方であるが、配当を得るためには、権利確定日の2営業日前である「権利付最終日」までに株を購入する必要がある。2023年の場合、3月末決算企業の第2四半期決算日は9月29日なので、2営業日前の27日までに株を買えば配当を受け取る権利を得られる。配当を受け取るための申請などは必要ない。翌28日が権利落ち日であるが、28日に売却をしても配当を受け取る事はできる。

上記の配当取りのみを目的とする短期的な売買以外にも日々の株価の動きに左右される事なく、配当金で安定的な収入を確保する事を目的として長期保有する事もできる。

高配当かつ利益成長のある銘柄をスクリーニング

高配当かつ利益成長のある銘柄を探すために以下の指標を使いデータベースでスクリーニングする。

配当利回り(一株当たりの年間配当金÷現在の株価):決算期の1株当たりの年間配当金が、株価(投資金額)の何%に相当するかを示す指標。株式の配当利回りは預貯金の利率を上回ることが珍しくないため投資尺度の1つとしての配当利回りに注目する人が増加している。一般的に4%以上が高配当とされているために4%以上とする。

直近3期の純利益のCAGR(年平均成長率)10%以上

実績ROEが10%以上

配当利回り4%以上、直近3期の純利益のCAGR(年平均成長率)10%以上、実績ROEが10%以上と設定してプライム上場、スタンダード上場銘柄からスクリーニングしてみる。

スクリーニング結果

上述した3つの指標を使い3月決算期のプライム上場銘柄、スタンダード上場銘柄をスクリーニングした結果で27銘柄が該当したが、ここから中間配当を行う企業に絞り5社となった。

code#NameMktCROEDivYNPcagr*
8130サンゲツ1,781億円14.6%4.3%516.8%
7202いすゞ自動車1.5兆円11.1%4.0%10.8%
6070大和工業4,666億円14.4%4.1%20.5%
8020兼松1,839億円13.6%4.1%21.2%
9769学究社220億円37.3%4.3%15.9$

(データスクリーニング 2023/9/19時点、NPcagrは過去3期の純利益のCAGR)

1)サンゲツ(8130)

企業概要:インテリア商品を扱う専門商社である。カーテン、壁紙、床材などを総合的に扱い、インテリア業界の最大手。

業績推移:2016年に米国のKoroseal Interior Products Holdings,Inc.(米国で壁紙、プレゼンテーション用壁装材、壁面保護材等をホテル、オフィス、商業施設、学校、病院など非住宅向けに販売する壁装材製造販売会社であり、その分野において米国内最大のシェアを持つ。)を1億3,400万ドル(当時の為替レートで約143億円)を買収。2017年にシンガポールのGoodrich Global Holdings Pte. Ltd.(東南アジアを中心に壁紙・ファブリック・カーペット等のインテリア商材を取り扱い、東南アジアの内装材料販売市場においては最大規模のシェアを持つ)を2,920万シンガポールドル(当時の為替レートで約25億円)で買収した。2020年3月期通期ではKoroseal Interior Products Holdings,Inc.の減損損失を59億円計上したために当期純利益が前期比▲60%の14億円となった。

コロナ禍は業績は低迷してはいたものの2023年3月期までの中期経営計画で戦略的調達の推進から壁紙製造事業に参入を決定し、2021年2月に46億円で国内最大手壁紙メーカーのウェーブロックを完全子会社化し、2022年1月にクレアネイト株式会社に社名変更した。2023年3月期通期決算では売上、各利益段階全てで過去最高を達成した。海外事業(北米、東南アジア、中国・香港)については売上は伸びたものの営業赤字であった。2024年3月期1Q決算は1Qとして売上、各利益段階で過去最高を更新した。北米事業は1Qに黒字化したものの中国・香港は赤字が拡大し、海外事業全体では赤字継続である。

2026年3月期の自己資本の目標額を最大1,050億円とし株主還元は配当を主体とし、1株当たり年間配当金は 130 円を下限に、安定的な増配を目指している。

2)いすゞ自動車(7202)

企業概要:トラックメーカー世界5位。トラック、バス等の商用車を製造する自動車メーカー。トヨタ自動車と資本・業務提携、スウェーデン、ボルボ・グループと戦略的提携。2020年ボルボ子会社のUDトラックを買収。

業績推移:2021年3月期はコロナウィルスの世界的な蔓延を受け上期に販売台数が減少し、売上高が2兆円を割ったが、翌2022年3月期には大幅増益の好決算となった。半導体不足の影響を受け国内商用トラック、タイのピックアップトラック販売が影響を受けたが、新興国向け出荷に振り替える運営により、マイナス影響を最小限にとどめた。損益は、ボリュームミックスの改善、費用減及び為替好転により想定を上回った。2023年3月期は部品不足の改善が進み商用トラック、ピックアップトラックともに販売数が増加し、特にピックアップトラックは二桁増となった。その結果売上高は前期比27.1%増の3兆1,995億円、営業利益が35.4%増の2,535億円、純利益が20.2%増の1,517億円と売上、各利益段階で過去最高益を更新した。資材費・物流費の高騰あるも、数量増加、円安進行及び価格対応により増益となった。

2024年3月期1Q決算結果はピックアップトラックは主力市場のタイが金利上昇で販売減速となるも先期に部品不足により供給が滞った豪州を中心に台数増となった。商用トラックは、先進国向けが部品不足改善で台数増も、新興国向けが市況厳しく台数減となった。損益は、仕向・車型構成の改善、価格対応、及び原価低減活動が、資材費等の高騰を上回り、増益となり1Qとして売上、各利益段階で最高を記録した。

3)大和工業(6070)

企業概要:独立系大手電気炉メーカー。鉄鋼事業と重工加工品事業をヤマトスチールとして分社化。米国に子会社及び持分法適用会社を、タイと韓国に子会社を持つ。タイと韓国の事業規模は国内の事業規模とほぼ同規模であり、子会社と持分法適用会社を含めた米国での事業規模は、国内の事業規模よりも遙かに大きい。米国の関連会社からは、持分法による投資損益という形で営業外損益を計上している。経常利益の85%は海外からである。

業績推移:大和工業の過去5期の売上高は2019年3月期に2,013億円を達成し、2013年3月期に1,360億円まで落ち込んだが、2023年3月期には1,804億円まで回復した。2023年3月期は経常利益、当期純利益ともに過去最高を更新し、経常利益は905億円、当期純利益は653億円となった。大和工業の場合は営業利益率でなく経常利益率を重視するべきであるが、ドル高と米国での鋼材マージンの高さを円転し、2023年3月期の経常利益率が50.2%という高い利益率となった。米国でのウクライナ問題の長期化、世界的な資源価格の高騰や中国経済減速の影響等により鋼材需要・市況の落ち込みが見られたものの、米国、日本、中東の型鋼需要は年間を通じて底堅く推移し、特に米国が高水準の鋼材マージンを確保し業績を牽引した。財務状況も良く、自己資本比率が85.4%、有利子負債がゼロと資本効率の低さにやや問題があるが、それ以上に利益レベルが高くROEは14.4%である。

4)兼松(8020)

企業概要:1889年に日豪貿易の先駆けとして創業。1990年代にバブル期の不動産投資の失敗により経営不振に陥り取引銀行に1700億円の債務免除を要請、祖業の繊維や紙パルプ、不動産事業から撤退。2007年には、インドネシアの天然ガス権益も手放し、IT・食品系統中心の専門商社化することにより経営再建した。直近、営業利益の9割はICT関連の貢献による。

業績推移:過去5期の売上は2021年3月期に6,491億円に落ち込んだが、7,000億円台で推移していた。2023年3月期は売上高が9,114億円となり当期純利益は247億円となった。事業セグメントで一番貢献したのが鉄鋼・素材・プラント事業でセグメント利益は前期比83億円の増益であった。米国内のエネルギー投資伸長と鋼管価格上昇により順調に推移した。エネルギー事業は市況の上昇や外航船向け船舶用燃料販売を中心に好調であった。ICT事業はセキュリティ関連やネットワーク関連の案件の増加や納期遅延の改善もあり好調に推移した。半導体部品・製造装置事業は旺盛な需要により好調であった。一方モバイル事業は低調であった。

兼松は2023年1月に「当社グループ一体経営の実現に向けて」と題するリリースを発表し連結子会社で住宅建材の製造販売や地盤改良工事を手がける子会社の兼松サステック(7961)と、システムインテグレーターの兼松エレクトロニクス(8096)に対してTOB(公開買い付け)を行い、完全子会社化を目指すことを明らかにした。TOBに投じる金額は二社合わせて792億円で、両社とも5月で上場を廃止した。二社のTOBのうち兼松エレクトロニクスの完全子会社化によるメリットは大きくTOB以前の兼松の持分比率は57%だったが、これが100%になるだけでも業績へのインパクトは大きい。2024年3月期通期の兼松の会社計画は当期純利益が前期比26.5%増の235億円である。

5)学究社(9769)

企業概要:教育事業として、中学、高校及び大学への受験生を対象とした進学指導を行う進学塾の運営を主な業務としており、「ena」のブランドを軸に、関東圏を中心に事業展開。また、個別指導の「個別ena」、最難関中高受験指導の「ena最高水準」、看護医療系受験指導の「ena新セミ」、芸大・美大受験指導の「ena新美」、オンライン授業専門の「enaオンラインclass」、オンライン家庭教師の「家庭教師Camp」、オンライン個別指導の「個別教師Camp」の運営を行っている。また、受験情報サイトのインターエデュも運営。

業績推移:少子化ではあるが、業績は伸びている。過去5期の売上高はCAGR8.3%で伸び2023年3月期は129億円を達成した。営業利益率は毎年上昇し、2019年3月期に12.2%であったが、2023年3月期には21.3%まで上昇した。人件費や家賃、水道光熱費等の校舎運営費は増加したが、自社所有合宿場の有効活用により合宿運営費用の削減に成功した。利益率の伸びにより当期純利益はCAGR21.3%と高い伸びを達成し、2023年3月期の当期純利益は18.8億円となった。2023年3月期で自己資本比率52.5%でROE37.3%であった。

学究社の戦略は「都立中高一貫校、都立難関高校」の対策塾として不動の地位を確立しており、東京都全域をドミナントエリアと定め積極的に新規開校をはかり、前期は「ena小中学部」を6校舎開校、また「ena美術」を1校舎新規開校した。オンラインクラス、またオフライン/オンラインの組み合わせの授業もある。

中期経営計画で2025年3月期に売上高165億円、営業利益率20%、営業利益33億円を目標としている。株主に対する利益還元を経営の重要課題として位置付けると共に今後の利益向上のための内部留保による企業体質の強化を図りながら業績に応じた成果の配分を基本方針としている。