2025年1月23日、24日に開催された日銀の金融政策決定会合で追加利上げが決定された。メガバンクは既に昨年から株価は上昇しているが、地方銀行の中には依然として株価の上昇が限定的で、出遅れている銘柄も散見される。このレポートでは、追加利上げによる地方銀行株への影響を分析し、特に注目すべき銘柄を取り上げる。
日銀の0.25%の追加利上げ
2025年1月23日、24日の日銀金融政策決定会合で昨年7月以来0.25%の追加利上げが決定され、政策金利は0.5%となった。利上げ後も実質金利はマイナスが続き緩和的な金融環境は維持されるとした。今回の追加利上げは1月14日に永野日銀副総裁からの予告とも思える発言通りに実現され、サプライズはなく、追加利上げによる株式市場の混乱はなかった。追加利上げ後為替は若干円高にふれた。
追加利上げによる地方銀行へのインパクト
金利収入の増加:銀行は貸出金利と預金金利の差で利ザヤを得ている。追加利上げにより企業や個人への融資金利が引き上げられるために純金利収入が増加する。特に地方銀行は預金金利の引き上げに慎重であるため、貸出金利が先行して上昇することで利ザヤが一時的に拡大する可能性がある。
地域経済への影響:中小企業にとって、借入金利の上昇はコスト増加を意味し、事業運営に悪影響を及ぼす場合がある。地方銀行は中小企業向け融資の比率が高いため、不良債権のリスクが増加する可能性も懸念される。住宅ローンや自動車ローンなどの金利が上昇すると、消費者の支出意欲が低下し、地域経済の成長に影響する可能性がある。
国債や地方債の評価損:地方銀行は、国債や地方債を多く保有しており、利上げによる金利上昇で債券価格が下落する。特に長期債を多く保有している地方銀行は、評価損を計上する可能性が高まる。評価損が大きくなると、自己資本比率が低下し、財務健全性への影響が懸念される。
地方銀行間の二極化:利上げは、地方銀行間で格差を広げる可能性がある。大都市圏や企業取引が多い地方銀行は、利上げの恩恵を受けやすい。人口減少や産業構造の変化が激しい地域を基盤とする銀行は、融資先が限られるため、利上げのメリットを十分に享受できない可能性がある。
出遅れ地銀銘柄5選
ここからは出遅れており、これから上値が期待できそうな地銀5選について紹介する。銘柄選択の基準として不良債権比率が低く、法人貸出比率が高く利ザヤ拡大が期待でき、地域経済が活発であり、割安な銘柄から5銘柄選んだ。株価、株価バリュエーションは全銘柄2025年1月28日の終値をベースとしている。
①いよぎんホールディングス(5830)
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
1,614円 | 4,836億円 | 9.5% | 4.6% |
予想PER | PBR | 配当利回り | 債券格付け |
8.4倍 | 0.6倍 | 2.5% | AA(JCR) |
企業概要:愛媛県拠点の伊予銀行を中核とするいよぎんグループを統括する金融持株会社。2022年に伊予銀行の単独株式移転により設立。傘下に伊予銀行、いよぎんキャピタル、いよぎん保証、いよぎんリース、四国アライアンス証券等。地方銀行グループ第一位の広域ネットワークを構築。伊予銀行は愛媛県内118店、愛媛以外の四国7店、中国地区9店、九州地区8店、近畿地区5店、東海地区1店、東京2店、海外1店(シンガポール)
愛媛県の主要産業:今治圏域 タオル(全国一位、全国出荷額551億円)、造船業(国内船主の外航船保有隻数)(全国一位、3,663隻)宇摩圏域 パルプ・紙産業(全国二位、全国出荷額7兆7,538億円)新居浜圏域 住友グループの企業城下町として非鉄金属・化学・鉄鋼・機械器具(2兆4,653億円出荷、愛媛県の製造品出荷額の45.6%)宇和島圏域 海面養殖業(全国一位、5,211億円)
業績推移:地元と強固な信頼関係を構築し、預貸金残高は27年連続で増加。2024年3月期末時点で貸出金残高の内訳は事業性が4兆4,988億円、個人向けが1兆1,686億円であった。事業性貸出金残高が個人向けより遥かに割合が高く、利ザヤ拡大からの金利収入増加が見込まれる。直近の2025年3月期中間決算ではコア業務利益の増加、有価証券関係損益(特に債券売却益)が想定を大きく上回り、過去最高益を計上した。これを受けて2025年3月期通期の純利益予想を56.3%上方修正した。
②千葉銀行(8331)
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
1,309.5円 | 9,369億円 | 5.4% | 5.3% |
予想PER | PBR | 配当利回り | 債券格付け |
13.1倍 | 0.8倍 | 2.7% | A-(S&P) |
企業概要:千葉県で圧倒的なシェアを持つ地銀。投資信託残高及び年金保険の販売額累計が地銀で首位。横浜銀行、ソニー銀行と業務提携。東京での店舗展開を強化。2024年12月に東証グロース上場だったエッジテクノロジーズを買収、完全子会社化した。買収総額は約90億円。D/X戦略にAIを活用する予定。2025年春に東京・京橋に営業所を開設予定。都心部での法人営業強化。国内店舗数150店。
千葉県の主要産業:農業(大根、ネギ、人参は全国トップクラスの生産量、梨、イチゴ)畜産(豚肉、牛乳)漁業(イワシやサバの漁獲、ノリの養殖、アサリ漁業)工業(京葉工業地帯)石油・化学工業 石油精製や化学製品の製造が盛んで、JXTGエネルギーや三井化学などの大企業が立地。鉄鋼業 新日本製鐵(君津市)が拠点を持ち、鉄鋼生産が行われている。食品工業 加工食品や飲料生産。観光業 東京ディズニーリゾート、九十九里浜、南房総エリアは観光・レジャー地。物流業 成田空港(航空貨物の重要拠点、国際的な物流の要)千葉港(貿易港として全国有数の取扱量)物流拠点(首都圏に近い立地を活かし、多くの物流センターや倉庫が集中)天然ガス生産(千葉県は国内有数の天然ガス産出地であり、エネルギー供給の一翼を担っている)サービス業(千葉市や船橋市など都市部では、金融や情報通信業、医療・福祉サービスが発展)
業績推移:コロナ禍は業績が落ち込んだが、2023年3月期、2024年3月期と二期連続最高益を計上した。直近決算の2025年3月期中間決算では貸出残高が順調に増加し、資金利益、役務取引等利益ともに好調で業務純益は中間期として5期連続最高となった。不良債権比率は0.94%と引き続き高い資産健全性を維持。好調な中間決算を受けて2025年3月期通期の会社計画の当期純利益を従前計画より20億円上方修正し、今通期も最高益更新予定。
③めぶきファイナンシャルグループ(7167)
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
670.5円 | 6,702億円 | 4.7% | 4.4% |
予想PER | PBR | 配当利回り | 債券格付け |
11.3倍 | 0.7倍 | 2.4% | A+(R&I) |
企業概要:茨城県を地盤とする常陽銀行と栃木県を地盤とする足利銀行の金融持株会社が2016年に経営統合した。地銀グループ第三位の規模。傘下に常陽銀行、足利銀行、めぶきリース、めぶき証券、めぶき信用保証、めぶきカード、常陽キャピタルパートナーズ、ウィング・キャピタル・パートナーズ、あしぎんマネーデザイン等。国内店舗数は2024年3月時点で足利銀行134店、常陽銀行182店。
茨城県、栃木県の主要産業:茨城県は化学、鉄鋼、機械、食品関連が発展。代表的な工業地帯は鹿島臨海工業地帯(石油化学や鉄鋼業が盛ん。製鉄所や化学プラントが集積)つくば市周辺(科学技術研究施設や精密機械産業が集積)主要企業は日立製作所、JERA、住友化学。農業は全国有数の農業県で水戸の納豆を代表とする大豆、メロン、梨、サツマイモ等の生産量が全国トップクラス。養豚や畜産業も盛んで、豚肉の出荷量が全国トップクラス。つくば市は、日本最大の研究学園都市で、多くの国立研究所や大学が立地。筑波宇宙センター、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構などが拠点を構える。観光地は水戸偕楽園、袋田の滝、鹿島神宮等。
栃木県の主要工業分野は自動車・輸送機械(宇都宮市にはホンダの工場、日産栃木工場、関連企業)、食品(カルビー、ロッテ、明治等の工場)宇都宮テクノポリス(精密機械や電子部品関連企業が集積)農業(イチゴの生産量日本一、稲作)畜産(栃木牛やヤシオポークが特産品)観光地は日光東照宮や華厳の滝、中禅寺湖、鬼怒川温泉や塩原温泉等
業績推移:2024年3月期は6期ぶりに最高益を達成した。外貨調達コストの増加等により有価証券等収支が大幅減益になったものの対顧客サービス利益の増加、信用コスト、有価証券売買損益の改善により大幅増益となった。めぶきファイナンシャルグループの貸出金残高は法人向けの伸びが大きく、法人向け貸出金残高が個人向けの5倍近くあり、利ザヤ拡大からの金利収入増加が見込まれる。直近決算の2025年3月期中間決算は経営統合後の最高益となり、通期の純利益予想を50億円上方修正した。金融再生法開示債権(破綻先債権、延滞債権、貸出条件緩和債権、実質破綻先債権)の貸出金残高に占める比率は、1.48%と前期末の1.52%より低下。
④コンコルディア・ファイナンシャルグループ(7186)
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
882円 | 1.03兆円 | 5.4% | 5.2% |
予想PER | PBR | 配当利回り | 債券格付け |
13倍 | 0.8倍 | 3.1% | AA(JCR) |
企業概要:地銀首位級の横浜銀行と東日本銀行が2016年に経営統合。2023年に横浜銀行が神奈川銀行を株式公開買い付けにより子会社化。グループ会社に浜銀TT証券、浜銀ファイナンス、横浜信用保証、横浜キャピタル、浜銀総合研究所、スカイオーシャン・アセットマネジメント、ストームハーバー証券等。2024年11月に三井住友トラスト・ローン&ファイナンスを547億円で取得し子会社化。
神奈川県の主要産業:製造業(自動車 日産本社、エンジン工場、いすず自動車(藤沢)、富士フィルム(南足柄)、ソニー(厚木)、日立(横浜)、武田薬品(藤沢)、花王(横浜)、資生堂(横浜)、IHI(横浜、相模原)、三菱重工(横浜))物流・貿易 横浜港は日本有数の国際貿易港、川崎港は工業原料、石油、化学製品輸入、相模原・厚木は首都圏向けの物流拠点 IT・AI・ロボット開発拠点 武蔵小杉・新川崎「かながわサイエンスパーク」 湘南国際村 研究機関・企業の開発拠点 相模原 JAXA相模原キャンパス(宇宙研究)農業・漁業 三浦半島 キャベツ・大根 相模湾沿岸(小田原・真鶴・三浦)漁業・マグロ養殖 厚木・相模原 酪農・畜産 観光 横浜エリア、鎌倉・湘南エリア、箱根
業績推移:2024年3月期は統合以来最高益を達成した。貸出金残高増加、利回り改善による貸出金利息の増加に牽引された好決算であった。課題であった外国債券の逆ざやはロスカットによりほぼ解消し、2025年3月期の安定的なインカム収益を確保可能なポートフォリオを構築した。直近の2025年3月期中間決算は前年同期比2倍の経常利益を達成し、中間決算として最高益を記録した。貸出金残高増加・利回り差改善による預貸金利息の増加等により、資金利益は大幅増加した。貸出金の変動金利割合は約7割と利ザヤ拡大からの金利収入増加が期待できる。好調な中間決算を受けて通期の純利益予想を35億円上方修正した。中間期時点で不良債権比率は1.4%と低水準を維持した。
⑤しずおかファイナンシャルグループ(5831)
株価 | 時価総額 | 自己資本比率 | ROE |
1,369.5円 | 7,525億円 | 7.7% | 4.8% |
予想PER | PBR | 配当利回り | 債券格付け |
11.4倍 | 0.6倍 | 3.7% | AA-(R&I) |
企業概要:傘下に静岡銀行、静銀総合サービス、静銀モーゲージサービス、静銀TM証券、静岡キャピタル、静銀ITソリューション、静銀信用保証、静銀カード、静銀リース等を擁する金融持株会社として2022年に10月に設立。静岡銀行の店舗数は静岡県内で152店、国内静岡県外で33店、海外6拠点。関連会社にマネックスグループ。
静岡県の主要産業:全国でも有数の工業県で輸送機械(スズキ、ヤマハ、ホンダの二輪車製造)、楽器(ヤマハ、ローランド、カワイ)、食品加工(静岡茶、鰻養殖、はごろもフーズ、キッコーマン)、製紙業(王子製紙、日本製紙、特種東海製紙など大手企業が集積、全国の約2割の紙製品を生産)、化学(富士フィルム、三菱ケミカル)、物流(首都圏と関西圏の中間点に位置する為に物流拠点として発達、清水港は国際貿易港として自動車や食品の輸出入が活発)、エネルギー関連(浜岡原子力発電所、水力発電)、農業(お茶、みかん、イチゴ、わさび)、漁業(マグロ・カツオ漁、シラス漁、鰻養殖)、観光地(富士山、熱海・伊豆温泉郷、浜名湖、大井川鉄道、日本平ロープウェイ等)
業績推移:2024年3月期は静岡銀行の業務粗利益(資金利益、役務取引等利益)の増加を主因に増益となった。マネックスグループによる子会社株式売却に伴い、持分法投資利益が一時的に増加した。固定資産評価見直しに伴う特別損失▲221億円増加と併せ、政策投資株式の縮減による株式等売却益150億円を計上した。2025年3月期中間決算は貸出金利息及び有価証券利息配当金等を中心に資金運用収益が増加したものの、有価証券売却益(株式、債券とも)の減少により減収となった。しかし、減損損失の減少により中間純利益は前年同期比40.6%増となった。貸出金残高は中小企業向、消費者ローン、住宅ローンが伸びており、利ザヤ拡大から金利収入の増加が期待される。中間決算の結果を受けて通期の純利益予想を60億円上方修正した。中間期時点でリスク管理債権比率が0.92%、ネットリスク管理債権比率が0.11%と高い資産健全性を維持している。