最近、投資初心者からこんな質問をよく受けます。「新NISAを使って投資を始めたいのですが、銀行の定期預金くらいしかやったことがありません。いったい何を買えばいいですか?」

2024年1月、規模を拡大した非課税投資制度「新NISA」がスタートし、人々の投資への関心は急速に高まっているようです。

さらに、食料品や日用品など身の回りのモノの値段が上がる「インフレ」が定着したことも、「定期預金を超える投資」を探す行動へと、投資初心者を駆り立てる要因になっていると思われます。

前回紹介した「住宅系リート」への投資に続き、今回は、「定期預金の少し先にある投資商品」として「種類株式」を紹介します。

ただし、リスクのない投資は存在しません。投資元本が減ってしまうこともあり得ますので、ご自身が耐えられるリスクか否か、じっくり考えた上で挑戦してください。

目次

  1. 種類株式とは
  2. ソフトバンク第一回社債型種類株式
  3. 海外債券ETF(為替ヘッジあり)
  4. 個人向け10年物国債「変動10年」
  5. まとめ

種類株式とは

ここで紹介する種類株式は、2023年11月に東京証券取引所に上場した商品です。

約5年間、1株に対して100円/年の固定配当が約束されているので、優先株式の発行価格である4,000円に対する利回りは2.5%/年になります。上場からの約5ヶ月間、4,000円を中心に概ね上下1%程度の狭いレンジで取引されてきました。

一般的な株式と同様、売買単位は100株なので、「新NISA成長投資枠」を使って4,000円で100株を買えば、40万円の投資に対して、毎年1万円の配当を受け取ることができます。仮に成長投資枠240万円を全て使って600株購入すれば、年間6万円の配当を5年にわたり受け取れます。

のっけから「種類株式」という聞き慣れない商品名に驚かれるかもしれませんが、発行体(種類株式の発行主体)は、皆さんよくご存じの大企業です。

ソフトバンク第1回社債型種類株式(証券コード: 94345) 

「ソフトバンク第1回社債型種類株式」は、白い犬のCMでお馴染み、携帯電話等の通信事業を手がける「ソフトバンク株式会社」(以下、SBといいます)が、日本で初めて東証に上場した投資商品です。投資事業を生業とする「ソフトバンクグループ株式会社」ではありません。

SB普通株式の証券コード9434の後ろに、5を付けた「94345」の5ケタの証券コードが付されています。

社債型種類株式は、株式と債券の中間的な商品です。株式市場に上場しており、いつでも売買できるという点は株式のようです。一方、最初に決まった条件で配当を受け取り、発行体の判断により投資元本が払い戻されるという点は、債券的と言えます。

また、この種類株式には議決権や、普通株式への転換権もありません。これらの点も社債的な性格と言えるでしょう。

 ソフトバンク第1回社債型種類株式特徴と強み 
A. 固定配当の保証 
2029年3月31日までの約5年間、1株に対して100円/年の配当の支払いが約束されています(2024年3月31日を基準日とする初回のみ1株当たり41.53円の配当でした)。発行価格である4,000円に対する年利回りは、2.5%になります。

普通株式の場合、発行体の増益により配当が増える(増配)の可能性もありますが、この種類株については、当初に決められた固定配当は変動しません。

将来の状況変化に関係なく一定額の支払いが保証されている点は、定期預金とも似ていますが、利息の水準は定期預金をはるかに上回ります。

ちなみにSB普通株式の2024年3月期(通期)予想配当は86円/株です。2024/1/29の終値である1,963.5円で計算すれば、配当利回りは4.4%程度となり、種類株式の2.5%を大きく上回ります。

一方、SBが2023年7月に発行した5年物社債のクーポン(利率)は0.82%でした。

各商品の利回りを比べると、このような関係になります。

SB普通株式 > SB種類株式 > SB普通社債

こうした利回り水準も、種類株式が株式と社債の中間的な商品であることを示しています。

B. 運用期間 
普通株式と同様、いつでも市場で売却して運用を終了できるため、運用期間は投資家の判断次第です。

ただし、保有を続ける場合、SBの選択により運用期間が変動します。2029年4月1日以降、SBは現金を対価として種類株式を取得(コール)できます。コールとは、発行価格(4,000円)で計算した元本と直前の基準日以降の配当相当額で種類株式を買い戻す(償還する)という意味です。

このため、SBが最短のタイミングでコールすれば、約5年間で運用期間が終了しますが、コールしない場合、運用期間は延長されます。

ちなみにSBは「…市場慣習として、多くの投資家が配当のステップ・アップするタイミングにおいて、取得(コール)されることを期待していることは十分に理解しています。」とのコメントを公表しています。

したがって、メインシナリオは2029年3月時点で運用終了ですが、確約されたものではない点にご留意ください。

なお、コールしない場合、2029年4月1日以降の配当は、2.5%の固定金利から基準金利+3.182%に切り替わります。将来時点のSBの信用状況は不明ですが、現在の信用力から見れば非常に大きなスプレッドであり、SBに最短期間でのコールを促す仕組みになっていると言えそうです。

C. 価格変動リスク 
普通株式と同様、種類株式の価格も随時変動しますが、値動きは普通株式に比べて非常に穏やかです。

価格の変動要因は、主に長期金利の水準とSBの信用力の変化です。固定金利商品のため、長期金利の上昇は種類株の価格下落要因になります。したがって日銀が金融政策を引き締め方向に転換したことは、逆風と言えるでしょう。

ただし、固定配当の水準自体が高いこともあり、実際の価格変動は小幅に留まっています。

下のチャートは2023年11月8日から概ね3ヶ月の株価の変動を示しており、ピンク色の線が種類株、青い線が普通株の値動きです。

種類株式の値動きが、普通株式と比べて、非常に穏やかなことがご確認いただけると思います。

過去1ヶ月間を見ると、種類株の価格は、下値:3,999円、上値:4,011円、値幅はわずか12円で、発行価格4,000円に対して0.3%しか動いていません。

同期間の普通株式が、年末の株価に対して14%程度の値幅があったことに比べれば、種類株式の値動きは極めて穏やかでした。


高金利商品だけに、配当の権利落ち時には相応の価格変動が起こる可能性はあります。初の権利落ちを迎えた2024年3月28日の寄り付き価格は、前日終値に比べ37円(△0.9%)低い3,973円で、初回配当額に近い値下がりが発生しましたが、引けにかけて値を戻しました。

種類株式には債券のような経過利息の概念がないので、該当期間の配当は、権利確定日の保有者に全額支払われます。例えば、初回配当の権利付き取引最終日だった2024年3月27日の保有者は41.53円/株の配当を受け取れる一方、翌営業日の購入者は初回配当を受け取ることができません。

これが、特に高配当株について、権利落ち日に値下がりが発生するケースが多い理由です。ただし、種類株の保有を続ければ、次回以降の配当を受け取ることはできます。

また、発行価格である4,000円よりも安く種類株を購入した場合、SBの買戻し時点で発行価格と買い値の差額の譲渡益が発生するため、大きな値下がりが発生する懸念は小さいのではないかと考えます。

D. 発行体の信用リスク 
種類株式の最大のリスクは、発行体であるSBの倒産と言えるでしょう。

万一の場合、SBの資産の状態によっては、投資元本が毀損する懸念があります。返済の優先順位は、①銀行借入/社債、➁種類株式、③普通株式の順なので、種類株式の債権者に対する弁済は銀行、社債権者に弁済した後になります。

先ほど紹介した商品毎の配当利回りの差は、この返済の優先順位を反映したものと考えられます。

なお、種類株式の信用力は、信用格付けからも判断できます。SBは起債に際して、R&I:A-、JCR:Aという、いずれも投資適格水準の格付けを取得しており、その後変動はありません。

種類株の過去事例としては、トヨタ自動車が2015年7月にAA型種類株式という商品を発行したことがあります。この商品は非上場で譲渡制限付でしたが、2021年4月に発行体であるトヨタ自動車によりコールされました。

ソフトバンク第1回社債型種類株式は、安定した配当を求める投資初心者やリスクを抑えたい投資家が手がけやすい商品だと考えます。

発行価格である4,000円以下で購入すれば、コールにより4,000円が戻ってくるので、元本に損失は発生しません。ただし、途中で売却する場合、購入価格を下回る可能性がある点、及びSBがコールを遅らせた場合、運用期間が延びる可能性がある点には注意が必要です。

この商品についてさらに詳しい情報を知りたい方は、以下のリンクからFAQをご覧ください。

海外債券ETF(為替ヘッジあり)

種類株式以外で投資初心者向けの商品として、債券が挙げられます。債券は株式と比べて一般に値動きが小さく、満期まで保有すれば、元本が償還されます。

複数の債権に投資を行うETFであれば、発行体の信用リスクも分散されます。東証には新NISAに適合した国内外の債券ETFが上場しており、2,000円程度から少額投資が可能です。

ただし、円建て国内債券は金利の絶対水準が低い上、日銀による金融引き締めが予想されることから、現在の環境ではあまりお勧めしません。

むしろ、日本とは逆に今後金融緩和局面が予想される欧米先進国を中心とした海外債券に投資妙味がありそうです。個人的には為替ヘッジなしの商品が好みですが、為替リスクを取りたくない人は、為替ヘッジありの海外債券ETFを選ぶことも可能です。

為替ヘッジをかけることで、理論的には円債並みの利回りになり、値動きも円建て債券と似通ってきます。ただし、金融緩和により金利水準が低下すれば、保有債券の現地通貨建ての価格の上昇が期待できます。

下のチャートは日本を除く世界国債インデックスに連動するETF(2512, ピンク線)と日本の債券ETF(2510,青線)の値動きを比べたものです。為替ヘッジの結果、両者の値動きが似通ることをご確認いただけると思います。


東証には数多くの海外債券ETFが上場しており、世界国際以外にも、米国債、豪州国債、フランス国債など、多様な選択肢があります。

実績ベースの配当利回りは様々なので、運営会社のwebサイト等で最新の情報をご確認ください。

海外債券ETFの中には取引量が極端に少ない商品もあるので、ご注意ください。

以下は海外債券ETF(為替ヘッジあり)の一例です。

証券コード名称株価配当利回り売買単位信託報酬
2512NF 外国債券FTSE世界国債インデックス803円2.01%10口0.12%
1482iShares Core FTSE米国債7-10年セレクト1,778円2.13%1口0.14%
2554NF Bloomberg 米国投資適格社債 1-10年822.2円3.09%10口0.27%
2623iShares ユーロ建投資適格社債2,135円1.49%1口0.28%
2843上場Index Fund豪州国債4,168円1.69%10口0.11%
2862上場Index Fundフランス国債4,441円1.44%10口0.11%
2510NF 国内債券NOMURA-BPI総合連動型929.3円0.62%10口0.07%

(株価は204/1/30終値。配当利回りは各ETFの運営会社HP情報より。信託報酬は税抜きの年率) 
 

海外債券ETFは、円債を大きく上回る利率水準今後の金融政策の方向性株式と比べた価格変動リスクの小ささの観点で、「新NISA成長投資枠」の有力な選択肢となるでしょう。

ETFは小口投資が可能なので、ご自身のリスク負担能力に応じて、為替ヘッジなし、為替ヘッジありのETF、様々な国の債券ETFを組み合わせることで、独自の面白い投資戦略を組み立てることができるでしょう。

個人向け10年物国債「変動10年」

残念ながら新NISAの対象ではありませんが、定期預金よりも有利で安全な投資先として安心して紹介できる商品が、日本の個人向け10年国債、「変動10年」です。

国債は国が発行する債券であり、信用力は国内最強レベルです。定期預金と同様、元本100万円分購入すれば、満期日に元本100万円が償還(払い戻し)されます。償還時期は5年債であれば5年後、10年債であれば10年後で、利息は通常半年毎に支払われます。

個人向け国債は、固定3年、固定5年、変動10年の3種類が販売されていますが、選択すべきは「変動10年」の一択です。

先に金融引き締め局面に入っている日本の債券はお勧めしないと書きました。金利の上昇が予想される中で、固定金利の商品に投資を行うのは、流れに逆らった動きだからです。

しかし、「変動10年」については事情が少々異なります

「変動10年」の特徴と強み 
A. 変動金利 
「変動10年」は、適用金利が半年毎に見直される変動金利型の商品です。適用金利は直近の10年物国債の入札利回り(基準金利)の約2/3(0.66倍)水準で、0.05%の下限金利(フロア)が設定されています。

このため、今後金融引き締めにより長期金利が上昇する場合、「変動10年」の適用金利も上昇が期待できます。

例えば、2024年1月に募集された変動10年(第166回)の最初の半年間の適用金利(税引前)は0.4%でした。初回利率も一般的な銀行の定期預金よりも高い状態ですが、今後長期金利が上昇すれば、適用金利も上昇するため、金利上昇が不利になる訳ではありません。

B. 換金性 
購入から1年間が経過すれば、いつでも1万円単位での売却による中途換金が可能なので、急な支出への対応も可能です。この面からも固定3年や固定5年を選ぶ意味はあまりないと思われます。

ただし、途中換金する場合、直近2回受け取った利息(税引き後)が差し引かれて償還される点には注意が必要です。

C. キャンペーン 
証券会社が個人向け国債のキャンペーンを行っているケースがあります。購入額に従って一定の現金がキャッシュバックされるので、キャンペーンを行っている証券会社で購入するのがお得です。

ただし、キャンペーンの規模は縮小方向にあるようです。2024年2月にキャンペーンを行う証券会社のうち、大和証券はキャッシュバック対象を1,000万円以上の購入者としており、キャンペーンを通して現金を受け取れる人は少数かもしれません。

もう少し手頃な金額での投資からキャッシュバックの対象とする証券会社が現れる可能性はありますので、「変動10年」に投資する際には調べてみましょう。 
 

個人向け国債「変動10年」は、新NISAの適合商品ではないものの、定期預金に変わる有力な選択肢となり得る商品だと考えます。

まとめ

投資初心者にとって、「新NISA成長投資枠」での商品選択は難しいものかもしれません。選択を間違えて損をすることに対する恐怖心もおありでしょうし、商品を決めたとしても、果たしていつ買えばいいのか、悩みは尽きません。

重要なことは「習うより慣れろ」です。始めないことには定期預金頼みの運用から卒業できません。

まずはリスクが限定的な商品から投資を始めてみることです。

今回紹介したソフトバンク社債型種類株式及び海外債券ETF(為替ヘッジあり)は新型NISA成長投資枠の対象商品であり、価格変動リスクもそれほど大きいものではありません。

また、新型NISA対象ではありませんが、国が発行する個人向け国債「変動10年」は、定期預金の一歩先にある分かりやすい商品だと思います。

今回の記事を通じて皆さまの投資デビューのお手伝いができれば幸いです。

SB種類株式の上場以降、前田建設工業等を傘下に置くインフロニアHD(5076)が2例目となる社債型種類株の発行計画を公表しました。さらに、楽天グループも種類株式の発行のための発行登録を実施しました。発行条件等は未定ですが、個人投資家の選択肢を拡げる種類株式発行の動きに注目です。