執筆:西村 麻美


ウクライナへの侵攻を受けて、ロシアへの経済制裁が始まってる。マーケットアナリストとして日本株への影響を考察。影響のありそうな銘柄をピックアップしてご紹介します。


JTの基本情報

株価
(2022/3/8)
時価総額 自己資本比率 ROE ROIC
2,006円 3.5兆円 48.7% 12% 8.1%
PER
(実績)
PER
(予想)
PBR 配当利回り EV / EBITDA
10.5倍 10.0倍 1.27倍 7.48% 6.3%


ロシア関連の銘柄で商社が大きく注目されているが、JTはロシアのエクスポージャーが実は一番大きいと言って良いかもしれない。

JTは1999年にR.J.レイノルズ・タバコ・カンパニーの子会社であるRJRインターナショナルを買収しJTインターナショナルを設立した。

JTインターナショナルを含めた販売シェアは世界第4位であり、JTの統合報告書によると2020年末のJTのロシアでのマーケットシェアは38.4%であった。また、ロシア国内の4か所、ウクライナ国内の一か所で製造工場を保有している。


JTの2021年12月期通期の決算結果は、連結売上収益は前期比11.1%の2兆3,248億円、営業利益は同6.4%増の4,990億円、調整後営業利益(営業利益から買収に伴い生じた無形資産に係る償却費、調整項目を除いた調整後営業利益)は6,518億円であった。

このうち海外たばこ事業の調整後営業利益は4,543億円であった。
海外たばこ事業が総調整後営業利益の70%近くを占めていた。


ロシアを中心とするCIS(Commonwealth of independent states、旧ソビエト連邦の構成共和国で形成された国家連合)での販売数量及び売上収益であるが、2021年12月通期の販売数量は1,262億本、売上収益は3,116百万USD、調整後営業利益は1,083百万USDであった。

海外たばこ事業の総販売数量が4,602億本、総売上収益が13,468百万USD、総調整後営業利益が4,157百万USDであったので、CISでの比率は総販売数量の27%、総売上収益の23%、総調整後営業利益の26%であった。

2021年末時点でのロシアでの市場シェアは36.7%であった。


上述のようにロシア及びCISは製造工場を計5か所保有し、JTが成長市場として重視しているマーケットである。


製造工場に関してはウクライナの工場はロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日に操業を停止しており、再開したとの情報は今のところない。一方ロシア国内の四か所の工場に関しては今のところ操業を続けているとの事である。

週刊東洋経済Plusの2022年3月7日付の記事「JT、「利益の2割」を稼ぐロシア混迷の深刻影響」によると、JTインターナショナルのロシアはベルギーから原料のたばこを輸入しているが、現在何らかの理由で物流が止まっている可能性があり調査中であるとの事である。

ロシア国内の工場では原料のたばこ葉の在庫を4カ月分持っているとの事であるが、在庫を使い果たしてしまった場合には生産を中止せざるを得ない事態になるかと推測する。


為替であるが、JTの決算資料によると2022年の円/ルーブルの前提レートは100円/ルーブルが70.20としている。

3月8日時点での為替は100円=106.95ルーブルと2022年の想定レートの52%ルーブル安、2021年実績の為替レート67.10より59%ルーブル安になっている。


ロシア国内での事業資金の決済について、ロイターの3月3日の報道によると国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)に絡まない国内システムを利用しているとの事なので日本への送金が難しくなる、収益として計上される事に関しては現時点では問題にならなそうである。


現在入手できる情報のみでどの位のネガティブなインパクトになるかの試算をする事は難しいが、今期の連結業績予想については下方修正せざるを得ないと考える。

ベルギーからのたばこ葉の物流が止まっている可能性がある事、原料の在庫が4カ月分しかない事、ルーブルが暴落している事を考えるとJTに与えるロシア、ウクライナ間の戦争の影響は長期化するほど深刻になると見ている。


また、JTは特別法『日本たばこ産業株式会社法』による特殊会社である。同法には、全株式のうち3分の1以上の株式は日本国政府(財務省)が保有しなければならないと規定されており、筆頭株主は財務大臣(33.3%)である。

そうなるとロシア、ウクライナでの事業について何らかの決断をする際には筆頭株主としての政府の意向も聞く必要が生じる可能性もあるかもしれない。


JTの株価を見るとロシアのウクライナ侵攻が始まってから大幅ではないが下落し続けている。現在の株価で予想PERが10倍、PBRが1.27倍、EV/EBITDAが6.3倍である。

戦争の長期化による現地情勢の悪化、物流の混乱はまだ株価に織り込まれているようには思えず下値は更にあると思われる。


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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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