執筆:西村 麻美


ウクライナへの侵攻を受けて、ロシアへの経済制裁が始まってる。マーケットアナリストとして日本株への影響を考察。注目が高まる再生可能エネルギーと、関連銘柄をご紹介します。



ロシアのウクライナ侵攻後のエネルギー価格高騰

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから2週間以上が経過した。その間に停戦協議が3回あったが、ロシアの強硬姿勢は変わらず大きな進展はない。

西側各国による経済制裁が次々に発表される中、原油価格は上昇し続けた。

米国がロシア産原油などの輸入禁止措置を発表したのをうけて、3月8日のニューヨーク・マーカンタイル取引所で原油先物相場が上昇し、WTIの期近(4月物)は一時1バレル129ドルをつけた後にロシア、ウクライナの外相会談への期待で翌日は13%近く下落したが停戦への進展はない状態である。

10日にカナダの天然資源相が米国向け輸出を増やすためにパイプラインの稼働率を引き上げるべく模索しているとのコメントを受けて原油先物価格は106ドルで落ち着いた。


一方欧州の天然ガス価格が7日の取引で過去最高値を更新、1メガワット時(MWh)で初めて300ユーロを上回った。

指標のオランダのガス先物価格TTFは一時79%上昇して1MWh=345ユーロをつけた後に急落し10日には1MWh=126ユーロをつけるなど原油先物価格同様に乱高下している。


化石エネルギーから再生可能エネルギーへのシフトの必要性の高まり

日本はロシアからLNG(液化天然ガス)、石炭、石油のエネルギー資源を輸入しているが既存大手電力会社や新電力会社は調達コストの上昇に直面している。

特に新電力会社深刻な経営難に陥りそうである。このような状況の中、調達リスクの少ない再生可能エネルギーが注目を浴び、関連銘柄が上昇している。

西側各国からの制裁に対する報復措置でプーチン大統領はエネルギー資源の輸出停止も有り得る状況であり、日本において地産地消のエネルギーにシフトする必要性が高まっている。


再生可能エネルギーとは、資源に限りのある化石燃料とは異なり、一度利用しても比較的短期間に再生が可能であり、資源が枯渇せず繰り返し利用できるエネルギーである。

主な再生エネルギーの種類に太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス(動植物等の生物から作り出される有機性のエネルギー資源)等がある。


電源別発電コストの比較

日本での再生可能エネルギーは既存電力の発電コストに比べて高いと言われてきたが、どの位違うのだろうか。資源エネルギー庁(経済産業省の外局)が昨年電源別発電コストの検証を行った。(使用データは2020年当時、OECDも使うモデルプラント方式で試算)

(注:資源エネルギー庁 “基本政策分化会に対する発電コスト検証に関する報告”の中のデータを使用し、クリプタクトでグラフ作成)


電源別発電コストを見てみると確かに洋上風力(30.0円/kWh)は建設コストを考えると一番高くならざるを得なかったが、次いで石油火力(26.7円/kWh)が高かったのは意外であった。

再生可能エネルギーの代表的な太陽光発電(事業用)の発電コスト(12.9円/kWh)は石油火力の発電コストの約半分であった。しかも2020年当時の原油価格(年次平均、WTI価格)は39.68USDと現在の原油価格の三分の一程であり、現在の価格で試算をしたら石油火力発電のコストははるかに高いコストになっていただろう。

石炭価格に関してはオーストラリア産石炭の2020年の価格は60.79USD/トン(年次平均)であったが、直近は196.95USD/トンと3倍以上に跳ね上がっている。LNG価格(日本)の2020年の価格は8.31USD/100万BTU(年次平均)であったが、直近は14.81USD/100万BTUと1.8倍ほどに上昇している。


大手電力会社の調達コストの高騰と価格転嫁

実際に既存の電力会社はどのような電力構成で発電しているのかを調べてみると、2020年度実績で以下のような内訳であった。

(出典:東京電力エナジーパートナーHP、電源構成・非化石証書の使用状況)


東京電力エナジーパートナーの場合、石炭、LNG・その他ガスの火力が78%であった。やはり極端に発電コストの高い石油は0%であった。(実際には0%以上0.5%未満)


電力大手10社は2021年に1,000円以上の値上げを実施し、直近でも2月末に今年の4月分の電気料金の値上げを発表したが、ほぼ毎月値上げをしている。

東京電力エナジーパートナーの平均モデルの今年の電気料金は以下の通りである。

2022年1月 2022年2月 2022年3月 2022年4月
7,631円 7,961円 8,244円 8,359円


東京電力エナジーパートナーは2021年に1,314円の値上げを実施したが、2022年に入り既に728円の値上げの実施をしている。

今後も原油価格の高騰に伴いLNG価格、石炭価格も高騰しているためにウクライナ、ロシアの紛争が解決しない限りエネルギー価格は上がり続けるために値上げせざるを得ない状況にある。

化石燃料を海外から輸入しているために円安、エネルギー価格上昇のダブルの影響で消費者にとっては大きな打撃である。


再生可能エネルギーの買取価格と市場規模の推移

一方再生可能エネルギーなどの買取価格はどうなっているのか。まず日本における再生可能エネルギーの買取制度であるが、固定価格買取制度のFIT(Feed-in Tariff)制度が再生可能エネルギーの導入を拡大するために2012年に開始した。

FIT制度は一般家庭や事業者が再生可能エネルギーで発電した電気の買い取り価格を法律で定める方式の助成制度である。今年でFIT制度開始から10年が経ったが、FITの買取価格の推移は以下の通りである。

(資源エネルギー庁のFIT買取価格のデータを基にクリプタクト作成)


FIT買取価格の推移を見ると太陽光発電の買取価格のみが毎年下落してきたが、他の電源での発電に比べて用地確保、太陽光パネル設置しやすさ等から参入業者数が多く市場原理が働いた結果であるだろう。

野村総合研究所の調べによると、再生可能エネルギー市場は太陽光発電を中心に拡大し2020年度末(2021年3月末)時点で8,196万kWとなった。

(出典:野村総合研究所 「エネルギー市場動向2021」p.43)


太陽光発電市場の変遷

太陽光発電業者であるが、FIT買取価格の下落、コロナによる経済低迷により近年淘汰が一層進んでいる。帝国データバンクの調べによると太陽光関連の事業者の倒産数が増えており、2021年の太陽光発電業者数は5,423社と2018年比で約3割減少、市場規模は22.5兆円と半減した。


1,000kW以上の太陽光発電は2022年4月から、固定価格ではなく、電力の市場価格に一定のプレミアムを上乗せしたFIP制度に移行する。

FITではどの時間帯に発電しても常に固定価格であったが、FIP(Feed-in Premium)制度は日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格に連動する。

市場価格に一定のプレミアムを上乗せし、FITと同程度の収入を確保でき、需給ひっ迫などで市場価格が高騰した時に発電すれば追加収益が期待でき、かつ国民負担を低減する事ができる。


太陽光発電のプレイヤーの淘汰が進んでいるが、言い換えればきちんと利益をあげられているプレイヤーにとってはFIP制度への移行はむしろチャンスである。

固定価格買い取りではなく、市場価格にプレミアムを上乗せしてくれる事でここ数カ月のエネルギー価格の高騰時にも逆ザヤになる事は避けられる。また、エネルギー価格高騰時ではなくとも夏期の午後、冬期の朝、夜などの需要ピーク時は市場価格が高くなるために発電事業者側にとっては蓄電池の活用などで供給量を増やす事に経済的インセンティブが働く事になる。

FIT制度では発電計画を提出する事なく発電した電力を全て買い取ってもらえたが、FIP制度では発電業者は予め発電の計画地を報告し、一般送配電事業者の買取義務がなくなるために卸電力取引市場に参加して売電するか自ら電気の売り先を見つけて相対取引で売電契約を結ぶ必要がある。

プレミアム価格はどのように計算されるかというと基準価格から1ヶ月単位で算出される「参照価格」を引いた金額が「プレミアム単価」である。

プレミアムが交付される期間の20年を通して一定の金額である。FIP制度開始後しばらくは基準価格をFIT制度の調達価格と同じ水準にすることになっていて、2022年度はFIP入札対象外はkWhあたり10円となり、FIP入札対象は入札で決まる。

市場価格が安くなり「市場収入」が少なくなる時には「プレミアム」が多くなり、市場価格が上がり「市場収入」が大きくなる時には「プレミアム」が少なく、または0円になるが現在のようなエネルギー価格高騰時でもプレミアムはマイナスにはならない。


新買取制度と再生可能エネルギー市場の拡大

以上が4月からスタートするFIP制度のしくみであるが、再生可能エネルギーの買取に市場競争原理が働く事になり、蓄電池の活用等により市場価格が高い時に売電する事で発電事業者は収益を拡大する事ができ再生可能エネルギー市場の拡大の為の大切な制度変更である。


発電事業者側もFIT制度の元では最初の3年間は買取価格がプレミアム価格であったために本業とは関係ない事業者までも大量に参入した。

しかし、2015年度の買取価格29円までは十分利回りを確保できたが、以降は買取価格の大幅低下でバブルは終了した。そして、ここ数年の発電事業者の淘汰で残るプレイヤーは限られてきており、その中でも大口の相対取引の実績を積んでいる企業のみが残っていくと思われる。


また地政学的要因によるエネルギー価格の高騰により、地産地消で、為替リスクがなく、脱炭素で価格の大きな変動がない再生可能エネルギーにシフトする大きなきっかになったようにも思える。

FIP制度により再生可能エネルギーの発電事業者が適切な利益を確保する事が可能な仕組みができあがり、再生可能エネルギーは既存の電力よりも注目されていくと考えている。


以下に再生可能エネルギーの関連銘柄をあげる。


ウェストホールディングス(1407)

再生可能エネルギーを軸としたトータルエネルギーソリューションを提供する企業。太陽光発電システムの施工・販売などを行う企業グループの持株会社である。休耕地や干拓地、残土置き場跡など、様々な未利用地を活用し、環境に配慮した太陽光発電所を日本全国に展開している。

株価(2022/3/14) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
4,690円 2,159億円 26.76倍 8.12倍 16.2倍


JESCOホールディングス(1434)

電気・通信設備の独立系工事会社。設計・調達・施工管理(EPC)一貫受注。ベトナムでも実績がある。太陽光発電事業も重点事業と注力している。

株価(2022/3/14) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
415円 27億円 5.52倍 0.73倍 6.9倍


東京エネシス(1945)

火力・原子力発電所主体のメンテナンスや建設工事を手掛ける。東電関連の受注がメイン。近頃は太陽光発電関係の仕事も開拓している。

株価(2022/3/14) 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,054円 393億円 10.61倍 0.56倍 4.9倍


グリムス(3150)

持株会社として電力料金削減コンサルティング、住宅用太陽光発電システム、LED照明の販売、電力の小売を主な事業とする複数の事業会社を保有する企業である。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
2,071円 486億円 22.75倍 6.11倍 13.1倍


ジー・スリーホールディングス(3647)

太陽光発電関連事業を展開。発電所の取得・売却、機器販売が主。サプリ販売、消毒機器OEMも手掛けている。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
319円 57億円 赤字予想のためになし 2.73倍 9.5倍


Abalance(3856)

IT企業であるが、現在の主力は2011年に参入した太陽光事業である。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
2,317円 129億円 14.62倍 2.27倍 14.5倍


ENECHANGE(4169)

電力・ガス切り替えプラットフォーム運営や電力・ガス会社用クラウド型DX支援サービス提供している。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
942円 278億円 赤字予想のためになし 5.78倍 N/A


テスホールディングス(5074)

再生可能エネ発電所のEPC(設計・調達・施工)や自社所有発電所による供給事業を展開している。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,382円 485円 19.3倍 1.96倍 11.7倍


タクマ(6013)

ボイラー基盤にゴミ焼却炉、水処理装置へ展開。バイオマス発電プラント強い。台湾とタイに進出している。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,416円 1,175億円 15.76倍 1.26倍 6.3倍


イーレックス(9517)

現在、4基のバイオマス発電所を所有する国内トップクラスのバイオマス発電事業者。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,773円 1,049億円 16.11倍 1.99倍 8.5倍


レノバ(9519)

再生可能エネルギーの発電と開発・運営が2本柱。太陽光からバイオマス、風力など多様化していく方針である。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
1,466円 1,155億円 赤字予想のためになし 3.92倍 N/A


日立造船(7004)

社名の造船事業は売却し、現在の主力は環境・プラント事業のごみ焼却発電事業と水処理事業で洋上風力発電も手掛ける。

株価 時価総額 予想PER PBR EV/EBITDA
709円 1,207円 21.73倍 0.98倍 6.2倍


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プロフィール

西村麻実 / MamiNishimura
株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。


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