半導体株がさえない

2021年の株式相場の主役だった半導体株が日米ともに冴えない。SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は昨年末にピークをつけて以降2022年に入り下落している。年初から2022年9月29日(米国時間)までの騰落率は▲40.9%である。フィラデルフィア半導体株指数とは、米国(台湾のTSMCも構成銘柄)の主要な半導体関連銘柄で構成された株価指数で30銘柄で構成されている。日本の半導体銘柄の値動きもSOX指数に左右される。

 

            (出所:Yahoo Finance US)

2020年秋から半導体不足

今回のシリコンサイクル(半導体の景気循環サイクル)は2020年から始まったと言えるだろう。2019年秋に武漢で発生した新型コロナウィルスは2020年になり世界中に蔓延し、各国はロックダウン(都市封鎖)等に踏み切った。2020年は世界的な巣籠特需から大型テレビ、ゲーム、PC等の需要が拡大した。WSTS(世界半導体市場統計)によると、2020年の世界の半導体の市場規模は前年比6.8%増の4,404億ドルだった。

米前政権から続く米中の経済摩擦、コロナ禍のサプライチェーンの混乱、輸送コスト増等から半導体不足が2020年秋頃から始まった。供給不足の中半導体の需要は2021年に入ると更に伸び続け巣籠特需以外に5Gの普及、データセンターのサーバー需要、クラウドコンピューティング等のデジタル化の加速で2021年の世界の半導体の市場規模は前年比26.2%増の5,559億ドルとなった。

2022年になり、2月末のロシアによるウクライナ侵攻により両国が半導体製造に必要な希ガスや希少金属などの資源供給国であることから、長期化していた世界的な半導体不足が更に悪化するとの懸念があった。また、上海では中国のゼロコロナ政策からロックダウンが3月末から2か月間続き、6月末に解除されたものの納期の遅れや物流の乱れ等が残り、半導体不足の状況は変わらなかった。

しかし、半導体の供給量不足の状況から需要が急速に減退していると半導体メーカー、特にメモリー(記憶素子)各社から聞こえてきた。

マイクロンが需要減速に言及

米最大手の半導体メモリー・メーカーのマイクロン・テクノロジーが6月30日の3~5月期の決算発表時に発表した6~8月期の会社予想のガイダンスで半導体需要の減速について言及し、減収減益になると発表した。売上高の予想レンジは68億〜76億ドル(前年同期実績:82億7400万ドル)との事であった。8月上旬になるとマイクロンは6月末に発表した売上ガイダンスの下限を下回る可能性があると見通しを更に下方修正した。下方修正した理由はマクロ経済の悪化とサプライチェーンの問題により顧客企業に在庫調整が幅広く起きており、DRAMとNANDの需要予測が低下しており、WFE(ウェーハ製造装置)投資の削減を発表した。

韓国のメモリーメーカーのSK ハイニックスは7月下旬に顧客企業が景気後退懸念から設備投資に慎重になりサーバー用のメモリー・チップは年後半に需要が鈍化するとコメントした。9月に入り世界最大の半導体メモリー・メーカーのサムスン電子が9月上旬に新たな半導体製造施設で行われたメディアに対するブリーフィング上で2022年後半は半導体市場が急速に失速しハードランディングする可能性があるとコメントした。

世界の大手半導体メーカーの直近の2Q決算の実績と3Qの見通しは以下である。なお、世界最大のファンドリー(半導体メーカーやファブレスからの委託を受けて半導体チップの製造を行う生産専門企業)の台湾のTSMCはこのランキングには入っていない。

 

                 (出所:SemiWiki, “Semiconductor in decline in 2023”より)

サムスン電子、SKハイニックス、キオクシア(旧社名東芝メモリ)は3Qの見通しの発表をしていないが、前述のマイクロンは3Qの売上見通しを前年同期比▲21%と大幅な減少を発表。NVIDIAはゲーム需要の減少から3Qは▲12%を予想。台湾のMediaTekはスマートフォン需要の減速から▲5%を予想。テキサス・インストゥルメントはスマートフォン、タブレット需要の減少から▲2.3%を予想している。

 

マイクロンの決算発表

9月29日(米国時間)にマイクロン・テクノロジーが4Q、通期決算(マイクロンは8月決算)の発表をした。8月上旬の下方修正コメントの通り予想レンジの下限以下の売上であり、アナリスト予想平均よりも20億ドルも低い売上であった。

 

売上高66.4億ドル3Q比▲23%前年同期比▲20%
営業利益15.2億ドル同▲49%同▲8%
営業利益率22.9%同▲11.9%同▲2.1%
四半期純利益14.9億ドル同▲43%同▲8%

 

売上高は3Q比▲23%の66.4億ドル、営業利益は同ほぼ半減の15.2億ドル、営業利益率は同▲11.9%の22.9%、四半期純利益は同▲43%の14.9億ドルであった。マクロ経済悪化から消費者需要の急速な冷え込み、顧客企業の在庫調整が進んでいる事が業績の悪化の背景にあると会社側の説明があった。FY2023の1Q(9~11月期)のガイダンスは売上は42.5億ドル±2.5億ドル、粗利益率が26%±2.0%、1株当たり最終損益(調整後)が▲0.06~+0.14ドルと赤字になる可能性も示唆した。

決算結果を受けてマイクロン株は一時4%下落したが、マイクロンのCEOが急速な需要減速による供給過剰を解決するために減産と設備投資の削減について言及した事から値を戻し前日比1.94%安で引けた。

        

インフレ加速、マクロ経済悪化、購買力低下

マイクロンの決算結果、他の半導体メーカーの弱気の見通し、直近のアップルのiphone14の増産を断念とのニュース等から判断するとマクロ経済悪化から消費者の購買力がかなり低下しており、スマートフォン、タブレット、PC等の需要が急速に冷え込んでいると判断している。

また、米IT大手企業の4~6月期決算ではクラウド事業の売上高の前年比伸び率が鈍化した。アルファベットのグーグルクラウドは8%ポイント以上、マイクロソフトのアジュールは6%ポイント、アマゾン・ドット・コムのAWSは3%ポイント以上、伸び率が低下した。これら3社は巨大なデータセンターを保有しているが、設備投資を削減するとなると半導体メーカーにはインパクトが大きい。GAFA企業のみならず企業のデジタル化投資が減速となると半導体業界への影響は測りしれない。

半導体需要は中長期的には伸びるものの、経済悪化による需要減から2022年の残り3か月、来年前半にかけて調整局面をむかえていると考えている

日本の半導体メーカー

それでは日本の大手半導体企業はどうだろうか?ここでは東京エレクトロン(8035)、レーザーテック(6920)、ルネサスエレクトロニクス(6723)の3社を取り上げる。

東京エレクトロン(8035)はここのところ連日年初来安値を更新している。9月30日現在、予想PERは10.5倍である。2023年3月期1Qの決算結果は前年同期比増収減益であった。東京エレクトロンの直近の決算メモはこちら

売上高4,736億円前年同期比4.8%増前Q比▲16.1%
営業利益1,175億円同▲17.1%同▲30.3%
営業利益率24.8%同▲6.6%同▲5.0%
四半期純利益881億円同▲12.2%同▲30.5%

しかし、前Q比では減収減益であった。やはりスマートフォン、PC需要減からDRAM向け半導体製造装置の需要が減速したと推測される。

 

レーザーテック(6920)の株価もやはり下げているが、9月30日現在、予想PERは39.9倍である。レーザーテックは6月決算であり、通期の決算結果は増収増益であった。

売上高904億円前期比28.7%増
営業利益325億円同24.6%増
営業利益率36%同▲1.1%
当期純利益249億円同29.1%増

4Q単独の決算結果は

売上高368億円前年同期比101%増前Q比121.3%増
営業利益159億円同113%増同327%増
営業利益率43.3%同2.4%増同20.8%増
四半期純利益119億円同105%増同352%増

大幅な増収増益であった。レーザーテックは3Q比で営業利益、四半期純利益が共に3倍超であった。レーザーテックは先端半導体向けマスク欠陥検査装置が主力製品であり、EUVリソグラフィ用マスク検査装置では世界シェアの大半を占めている。先端半導体向けに特化しているために一般的なシリコンサイクルにはあまり左右されないとも言えるだろう。

 

ルネサスエレクトロニクス(6723)の株価は9月下旬になり下落基調である。ルネサスは通期の業績予想を通常発表しないので予想PERは算出できない。12月決算であるので、直近の決算は2Qである。

売上高3,771億円前年同期比73.1%増前Q比8.8%増
営業利益1,453億円同137%増同7.2%増
営業利益率38.5%同10.3%増同▲0.6%
四半期純利益1,204億円同160%増同11.7%増

ルネサスは車載マイコン(車搭載の半導体デバイス、 様々な電子制御ユニットの頭脳としての役割)で世界シェア首位(約3割)の半導体メーカーである。自動車向け以外に産業、インフラ、IoT用半導体も製造している。IoTのカテゴリ―でスマートフォン、PC向けは足元の需要は弱くなっていると8月の決算発表時に発表していた。

 

アナリストビュー

以上半導体セクターのアップデートをした。メモリーを中心に需要が急速に減速しており、これから2023年前半までは少なくとも調整になると考えている。日本の大手半導体企業ではレーザーテック(6920)は先端半導体向けに特化しているためにあまりシリコンサイクルに左右されないと考えているが、それでも株価はSOX指数の動向に左右されている。半導体セクターへの積極的な投資はマクロ経済の悪化がいつまで続くか不透明であり、まだ時期尚早であるだろう。

 

執筆者プロフィール

株式会社pafin 

マーケットアナリスト 西村 麻美

西村麻美/mami.png

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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