今週の注目投資トピックは「NTT・SBIが資本業務提携 ドコモ、住信SBIネット銀買収へ」元記事はこちら

以下、5月29日の時事通信の記事より引用。

NTTとSBIホールディングス(HD)が資本業務提携を締結することが29日、分かった。SBIHDが実施する第三者割当増資をNTTが引き受ける。両社は協力して通信・金融の融合を進める考え。提携の一環として、NTTドコモが、SBIHDが出資する住信SBIネット銀行を買収することも明らかになった。

ドコモは、TOB(株式公開買い付け)で発行済み株式の約3分の2を取得して住信SBIネット銀を連結子会社化する。ポイントで顧客を囲い込む「経済圏」の中核となる銀行業に参入し、非通信分野の事業拡大を目指す。同行株を約34%保有するSBIHDは、ドコモに譲渡する方針。三井住友信託銀行は出資を維持する。

大手携帯電話会社で傘下に唯一銀行を持っていなかったNTTドコモによる住信SBIネット銀行(7163)の買収により金融事業の本格的な加速であると考えている。KDDIは既にauじぶん銀行を持っている。じぶん銀行は三菱UFJと2008年の設立時に50%:50%の出資比率であったが、2020年にKDDIが三菱UFJの持株を全て買い取り、現在は100%KDDI資本である。ソフトバンクは傘下にPayPay銀行を持っている。

今回NTTドコモが金融事業を拡大する戦略にでたのは携帯電話市場の飽和がある。過去数年間NTTドコモの稼ぎ頭はdカード等の金融事業で、本業の携帯電話事業はスマホ普及率が日本国内では既に90%以上に達し、そこに楽天の携帯電話事業参入で過当競争状況にある。5G展開に伴う基地局整備・周波数確保などで、1社あたり年間数千億円レベルの設備投資が必要で、携帯電話事業単体では収益維持が難しく、各社とも金融・エネルギー・エンタメ・ヘルスケアへ拡大中という状況である。

大手携帯電話三社のマーケットシェアの推移は以下の通りである。

年度末ドコモauソフトバンク
201943.8%32.2%23.9%
202043.5%31.9%24.6%
202143.3%31.6%25.1%
202242.9%31.5%25.6%
202341.5%30.5%25.8%
202440.4%31.6%24.2%

                                        

   (出所:総務省資料)

三大携帯電話会社各社ともにマーケットシェアを落としている。(ソフトバンクは2019年末より0.3pt増)理由は楽天モバイルの低価格(月額1,078円〜の段階制プラン)攻勢が原因と考えられる。楽天モバイルの2024年度末のマーケットシェアは3.9%であった。

マーケットシェアを落としてはいるものの、NTTドコモはトップシェアを維持している。顧客数は約9,000万人である。(顧客ID数)d払い・dカード・dポイントによる顧客囲い込みをし、スマートライフ事業として金融・保険・ライフスタイル(DAZN等)を展開してきた。

2025年3月期通期時点で、NTTドコモの金融事業の営業利益は約1,978億円で、NTTドコモ全体の営業利益は約1兆205億円、金融事業の営業利益は全体の19.4%であった。この比率はKDDI、ソフトバンクと比較して遥かに高い。KDDIの金融事業の営業利益は約1,000億円、KDDIの全体の営業利益は約9,616億円、金融事業の営業利益は全体の10.4%であった。ソフトバンクの金融事業の営業利益は約332億円、ソフトバンク全体の営業利益は約9,890億円、金融事業の営業利益は全体の3.4%であった。ソフトバンク金融事業の営業利益の低さは2024年度に初めて黒字化したために低い。

NTTドコモの金融事業の営業利益率の高さは群を抜いて高いが、ユーザーの行動が「ドコモ経済圏」内で完結するように設計されているために収益率が高い。ドコモ契約者がdカードGOLDを契約=>dカードで支払うとdポイントが貯まる=>貯めたポイントをd払い or dマーケットで使用=>金融商品(投信、保険、ローン)にもポイント利用可=>再びドコモ内のサービスに戻る循環構造になっている。

今回のNTTとSBIホールディングスとの資本業務提携により、SBI証券はdポイント連携を開始、ドコモ経由で口座開設が可能になる。SBIホールディングスは三井住友ホールディングスと資本業務提携をし、住信SBIネット銀行を共同設立した。今回のNTTドコモによる住信SBIネット銀行の買収により住宅ローン残高シェアNo.1のネット銀行を手に入れる事になった。住信SBIネット銀行はフラット35を含む豊富な住宅ローン商品を持っており、狙いは住宅ローンビジネスと決済インフラの強化であるとみられる。また、NTTドコモとマネックスグループは、2023年に資本業務提携契約を締結しドコモマネックスホールディングス株式会社を設立した。

今回の買収によりドコモの約9,000万のdアカウントユーザー基盤と、住信SBIネット銀行の先進的なデジタルバンキング機能が融合し、住宅ローンや預金、決済サービスなどをワンストップで提供する体制が整う事になる。マネックスとの資本・業務提携により構築済みの「証券・資産運用・暗号資産事業」の上に乗る形で、ドコモの金融コンテンツ全体を補強するものになる。また、NTTとSBIホールディングスとの資本業務提携により、マネックスが持っていない保険事業等豊富な金融商品の提供が可能になる。これにより、ドコモは通信と金融を融合した新たな経済圏を構築する事になる。

5月29日の買収発表により住信SBIネット銀行は5月30日にストップ高買い気配となり前日終値比17.6%高の4,685円で比例配分となり、週明け6月2日には前営業日終値比4.16%高の4,880円となった。一方NTTは5月30日には一時前日比3%高の160.6円をつけたが、6月2日には前営業日終値比▲2.12%の157円となった。