今週の注目投資トピックは「牧野フライスへのTOB撤回 買収対抗策で「損害の恐れ」―ニデック」元記事はこちら。
以下、5月8日の時事通信の記事より引用。
ニデックは8日、工作機械大手の牧野フライス製作所に対して仕掛けているTOB(株式公開買い付け)を撤回すると発表した。牧野側が発動する方針の新株予約権を既存株主に無償で割り当てる買収対抗策が実施されれば、「損害が生じる恐れがある」と判断した。
ニデックは対抗策の差し止め仮処分を求めて東京地裁に申し立てていたが、7日付で却下された。同社のTOB撤回を受け、友好的な買収者「ホワイトナイト(白馬の騎士)」を探していた牧野側の対応が今後の焦点になりそうだ。
ニデックは昨年12月、牧野に事前に打診しないまま、1株1万1000円で今年4月4日からTOBを開始する買収計画を公表した。航空機や電気自動車向け部品の加工などに強みを持つ牧野を傘下に収め、工作機械事業を強化する狙いだった。
突然の「同意なき買収」提案に対し、牧野は買収による相乗効果を問いただす質問状を送付するとともに、TOBを延期するよう繰り返し要望。だが、ニデックは予定通りTOBを開始した。
牧野は、より有利な条件の競合案が出る可能性について、ニデックが株主に検討する時間を与えていないとして、TOBに反対を表明。新株予約権の割り当てで同社の持ち株比率を減らして買収を難しくさせる対抗策の発動を決定した。
2024年12月末に始まったニデックによる強行TOBは牧野フライスが既存株主に新株予約権を無償で割り当ててニデックの持株比率の希薄化させるという買収対抗策を実施されれば損害が生じる可能性があるとして2025年5月8日午後に撤回された。
TOBの撤回を受けて、牧野フライスの株価は5月9日に急落した。TOB価格である11,000円を上回る水準で推移していた株価が、撤回発表後には8,790円まで下落した。
ニデック(旧社名日本電産)は1973年創業の電機メーカーで精密小型モーターの開発・製造で世界トップシェアを持っている。M&Aにより(買収した企業は100社超)規模拡大してきた企業であるが、創業者の永守重信氏の独裁的な経営スタイルの印象が強い企業である。
今回の牧野フライスに対してのTOBは、事前協議なしの突然のTOB発表、なぜ敵対的に進めるのか、どんなシナジーがあるのかなどの情報が限定的であった。また牧野フライスによる買収防衛策を「株主軽視」とニデックは非難したが、結果的に東京地裁が買収防衛策の有効性を支持し、ニデック側が撤退を余儀なくされたことは、牧野フライスにとって明確な勝利と言えるだろう。
通常のM&Aは事前にトップ同士が会い、意向を確認し合う「水面下交渉」が基本であり、相手企業の文化や事業構造を理解し、将来的なシナジーや統合プロセスをすり合わせ、双方の株主・従業員・取引先に配慮した設計をするのが誠意あるM&Aのプロトコルとされているが、今回のニデックのやり方は強引過ぎたと言えるだろう。
しかし、ニデックは依然として2030年に売上10兆円の中期経営目標を掲げており他企業のTOBを仕掛けていくとみられる。
一方牧野フライスであるが、企業防衛には成功したものの、他の買収提案や業務提携先を検討する時間を確保するために防衛策を使ったというスタンスであったと言える。牧野フライスにとって「ホワイトナイトを探す」という選択肢は依然として現実的なシナリオの1つである。
牧野フライスは超精密・高級路線の工作機械に特化しており、マス市場や汎用性が低く、中立性と職人文化を重視する経営方針の企業である。現実的に考えるならば商社が筆頭株主になることで、牧野フライスの経営の独立性を維持しながらも、安定した資本と外圧からの防波堤を得るという形は理想的なのではないだろうか。
商社は基本的に「経営に口出ししない」スタンスを取るケースが多く、経営は独立性を維持し、必要な時にはネットワークや資金力で支援し、海外展開やサプライチェーン強化にも活用可能である。また商社は自社で製品を作らないため利害対立が起きづらい。商社は安定成長・長期関係構築を好む文化であり相性が良いマッチングに思われる。