今週の注目投資トピックは「豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出資案=関係筋」元記事はこちら

以下、4月26日のロイターの記事より引用。

トヨタグループの中核企業の豊田自動織機(6201.T),が、非上場化を検討していることが分かった。複数の投資ファンドから資産の有効活用などをたびたび求められる中、長期的に経営の自由度向上を図る。トヨタ自動車(7203.T), opens new tabやグループ企業が特別目的会社(SPC)を立ち上げ、株式を公開買い付け(TOB)する案が浮上している。関係者2人が明らかにした。

豊田織機はトヨタのルーツとなる企業で、トヨタのほか、デンソー(6902.T),などグループ企業の株式を多く保有する。ここ数年は株主の投資ファンドから親子上場や株式持ち合いの解消、資本コストや株価を意識した経営の実現など、さまざまな要求を受けてきた。

 関係者の1人によると、豊田織機は非上場化によって経営資源を事業や投資に振り向けたい考え。別の関係者によれば、トヨタとしてはグループの企業統治(コーポレートガバナンス)を強化する狙いがある。

豊田織機の時価総額は25日時点で約4兆3000億円。TOBは一般的にプレミアム(上乗せ)を付けて株式を買い付けることから、買収総額は5兆円以上になる可能性がある。

豊田織機は26日、「資本効率の向上やSPCを通じた非公開化などのさまざまな提案を受けている中、企業価値向上のため、あらゆる可能性を検討している」とのコメントを出した。トヨタも同日、「一部出資することも含め、現在さまざまな可能性を検討」しているとした。

両社とも現時点で決定した事実はないとし、「開示すべき事項が生じた場合には、速やかに開示する」とした。

同関係者らによると、SPCにはトヨタやグループ会社が出資し、金融機関からも融資を受けて買収資金を調達することを検討している。ただ、出資する側の関係者は「投資効果が見込めないとわれわれの株主に賛同してもらえないかもしれない」とし、株主の理解も得る必要があると話している。

豊田織機は1926年、トヨタグループ創始者で自動はた織り機を発明した豊田佐吉氏が設立。佐吉氏はトヨタ自動車の豊田章男現会長の曽祖父に当たる。佐吉氏の長男・喜一郎氏が豊田織機社内に立ち上げた自動車部門が独立する形で37年、トヨタ自動車工業(現:トヨタ自動車)が誕生した。

トヨタ創業家による豊田自動織機(6201)の買収・非公開化提案は、外部ファンドによる買収(いわゆる「乗っ取り」 )を防ぐ目的があると考えられる。

豊田自動織機は単なる「織機メーカー」ではなく、トヨタグループ全体の資本構造にとって極めて重要なポジションにある。豊田自動織機が保有する主な株式は①トヨタ自動車株の約7.3%、②デンソー株の約5.4%、③豊田通商株の11.18%、④ジェイテクト株の2.3%、⑤愛三工業株の7.6%等である。

豊田自動織機は単なる事業会社以上に、トヨタグループの資本の「防波堤」的役割を担っていると言える。上記のように豊田自動織機はトヨタグループ企業の株式を保有しているために、仮に豊田自動織機が外部ファンドに買収されたとしたらトヨタの「系列グループ経営モデル」が危機に直面する事になり、自動車部品サプライチェーンの支配権が外部に流出するリスクがある。

近年の資本市場の動きを見ていると、株主(特に海外の投資ファンド)が短期的な利益拡大を求め、長期視点の経営が難しくなってきている。投資ファンドの中でもアクティビスト・ファンドが台頭し、日本企業もターゲットになりやすくなり、買収・再編圧力が強まっている。特に親子上場している企業は、子会社が外部から狙われるリスクが高い。上場企業は内部統制、開示、コンプライアンスなどのガバナンス強化の要求が高まり、経営の自由度が下がっている。このような事を背景に上場のメリットが減少、リスクが増大していると言える。

昨年5月から始まり今年2月まで続いた富士ソフトの買収合戦、また経営不振のセブン&アイ・ホールディングスに対してカナダの大手コンビニチェーンのクシュタールが約7兆円の買収提案を行い、これに対抗して創業家の伊藤家が伊藤忠やメガバンクの支援で9兆円規模のMBOを行おうとしたが資金調達が難航し、MBOは取り下げた。セブン&アイはクシュタールからの買収提案を受け入れておらず引き続き協議を継続している状況である。

上場企業は経営の自由度を高め、買収リスクを防ぎ、上場維持にかかるコスト(開示、監査、IRコスト等)を削減し、その分長期戦略に資本を費やせる非公開化、MBO(マネジメント・バイアウト)を選ぶ事が増えてきている。一時期のように「上場がゴール」ではなくなり、上場後、状況によっては上場をやめるというのも選択肢となってきたと言えるだろう。

特に為替の影響、また株価バリュエーションで見ても日本企業は割安な企業が多く、東証も「PBR1倍割れ企業に改善策を出せ」と言い続けているものの、進展は遅く、本来の価値よりも格安で企業を丸ごと買えてしまう状態の企業が多い。

上場日本企業が取るべき防衛策としては、①自社株買い、②事業再編による企業価値最大化、③グループ内再編(親子上場解消など)、④創業家・経営陣によるMBO・非公開化、⑤事前の買収防衛策(ポイズンピルやゴールデンパラシュートなど)等が考えられる。

トヨタ創業家の動きは日本市場を象徴しており、この流れは他の大手企業・創業家筋にも広がる可能性が高いと考えている。